小説 | ナノ

▽ 00


「あれ?」


それを見つけたのは、グラウンドが見える場所にある花壇の世話をしていたときだ。
植えているパンジーの間に埋まっていた所にあった白いそれは、野球部のボールだ。少し土で汚れてはいるけれど、新しいものだろう。



(昨日はなかったのになぁ)


私は、持っていた如雨露を花壇の隅に置いて、回りを見た。
近くで誰か野球部の部員の人がいれば、その人に渡せばいい。でも、野球部の人たちの声はまだグラウンドから聞こえるし、グラウンドに近くても結構距離がある。誰か此処で練習でもしていたんだろうか?
歩いていると今は咲いていない紫陽花の緑色の大きな葉のの茂みの体を突っ込んでいる野球部の白いユニホームが見えた。ガザガザと動いて周りの葉が大きく揺れている。そして、一度顔を出したと思ったら、今度は少し離れた所の茂みに顔をまた突っ込んで探していた。
おそるおそる近づくと、その人は何かを一人で呟いている。


「ボール、ボール何処だ…」


見つからねェー!何処にあんだヨ…と言いながらまた近くの葉をゆらしている。
私は、その人に近づいて声をかけた。


「あの…すみません」
「…」
「あのっ!?」
「!?」


一度目の声は、草の音でかき消されてしまいなにも返事が来なかった。ので二度目はもう少し大きく声をかけると、その人は思いっきりその体を茂みの外へ飛び出てきた。被っているキャップや体に小さな葉や土がついているが、それを気にせずにその人は、私の方を真っ直ぐ見た。


「ん?」
「あの‥これ探していますか?」
「それ!ウチの何処にあったんだ?!」
「向こうの‥花壇の中にありました‥よ?」
「花壇の中?」
「あそこの奥の青色の如雨露が置いてある所‥」
「全然、違うじゃねえか‥あのヤロー。」


彼にボールを差し出した。すると彼は、そのボールを受け取り何処にあったのかを聞いてきた。私は、花壇の中にあったと言うと詳しい場所を言うと納得したようだ。とにかく、ボールが返せてよかった。彼は、ボールを握りしめて何か呟いて居たが、私の視線に気づいてこちらの方へ向く。

「あー、あの」
「は、はい」
「とにかく、あざッス」


頭のキャップを取って、真っ直ぐきれいな礼をして彼は、そのままグラウンドの方へ、走って戻っていった。
彼の姿を見送ると、私も作業に戻ろうと元来た道を戻った。















それが、入学してまだ2ヶ月位の時だった春の話。


名前は知らなかったけれど‥秋‥放課後に校内の貼り出された新聞の一面に彼の姿を見た時に、そのときの事を思い出した


(これ、あの時の人だ‥)


と写真を見る。中心でトロフィーを持って仲間と共に喜んでいる姿とボールを投げている瞬間の2枚の写真がある。名前は荒北靖友君。隣のクラスの私と同じ一年生。記事を見るとこの前の秋の大会で新人賞をとったようだ。


(すごいなぁ)


同じ1年でこの成果を出すことは、本当にすごいと思った。来年の夏の大会の期待の選手だとも書かれている。私は、記事を最後まで見たあとにもう一度二枚の写真を見た。どちらの彼もとても輝いていた。


(今日も練習してるのかな‥)


そう思って、グラウンドの方へ行って見た。私と同じように今日の記事を見たのか、何人かが同じように練習を見に来ている。中心では彼がちょうどマウンドに立ってボールを投げる姿は、とても輝いていて…格好いいなと見とれていた。





それから、時々彼の姿を遠くから見ていた。やっぱり、誰よりも輝いていて、かっこいいなぁと思う。


(いつか、また話せたらいいなぁ)



そう願っていたが、荒北君と話したのは、あの春の日の一度切りだった。
















prev / next

[ back to top ]


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -