夜独特の風が頬を掠める。
しかし、涼しいかと言われれば答えはNOだろう。

こんな夏の日に、涼しいも何もあったものではない。あまりの暑さに眉を顰めると同時に、辺りに強い風が吹いた。


「こんばんは、名探偵。」


優雅に夜空から舞い降りた白

背後にはいつも通りに月を背負って。
こんな暑い日にも関わらず衣装もいつものままで、その表情さえ涼しげだ。そんな彼、こと最近世間を騒がす大怪盗に元から顰められたコナンの眉がより一層、不快を訴えた。

「どうしました?」

「…暑苦しいから近づくな。」


ゆっくりと此方に歩み寄ってきたキッドと距離をとるようにコナンが一歩、後ろに下がる。
遠目から見ても暑苦しいのに間近で見ると、尚更暑苦しくって仕方がない。例え着ているのが自分ではなくっても。

ぴた、と言う音が正しいだろうか、途中で歩みを止めたキッドはどこかショックを受けたように立ち止まって動かない。それが自分のせいだとは思わないコナンは更に言葉を続ける。


「あちぃ、うぜえ、ムサい。」

「む、ムサい!?」

それは関係ないのでは…。
出そうになった言葉を飲み込んで、少し崩れてしまった表情を直す。怪盗紳士たるもの愛しい想い人に辛酸な言葉を浴びせられようがポーカーフェイスを保たなければ。


「そう言う名探偵は随分と涼しそうなお姿で。」


「もう夏なんだぜ?オメーみたいにスーツなんて着てられっか。」



そう言われてしまえば今まで我慢していた暑さが汗となってキッドの頬を伝う。もちろんキッドとて暑くない訳がない。

ふと、少し逸らした瞳を元に戻すと、風を送る為に服の襟をパタパタとしているコナンが映った。


「あまり薄着をしていると風邪を引いてしまいますよ。」

「なっ…!」

気配を消して近づき、小さな体をふわりと抱き込む。
軽い体は簡単に腕の中に収まり、触れ合った所からは互いの体温が伝わってくる。

「…あちぃ…。」


「そうですね。」

最初は抗議の声を挙げていたコナンは今や慣れたものだ…と大人しい。
二人とも動かないまま暫しの時間。しゃがみ込んでいるキッドの顔の前を小さな手が横切る。


「なぁ…、暑いからさ…」


そんな手の行く先をみて軽く、微笑む。この可愛らしい手の行き着く先は…

「これ、取っちまおうぜ。」

「はい、愛しい名探偵がそう仰いますなら。」


さっきとは違う心地よい風。暑さなど消えてしまうくらいに…。


握られた白いシルクハットが夜の闇に一際、際立って映えた。





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妹の文才に嫉妬嫉妬嫉妬!!!!!
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