余裕綽々な彼からの贈り物



お腹が重い。
シュラ様のお弁当がとても美味しかった上に、次々とパンを手渡されて、ついつい抑制が効かずに食べ過ぎてしまった。
反省しなきゃ。
これを教訓に、キッチリと断る術も身に着けなければいけないわね。
少しだけプックリと出てしまった女官服のお腹を擦り、人気のない廊下を歩きながら溜息を吐く。


「……アレックスっ。」
「わ、アイオロス様っ? どうされたのですか、そんなところで?」


油断していたところに、突然、ヒョッコリと顔を出したのはアイオロス様。
教皇宮の外から、廊下を歩く私の姿を見留めて、窓から中を覗き込んだらしい。


「ちょっと忙しくてさ。バタバタと走り回っている真っ最中でね。」
「でしたら、お引き留めする訳にはいきませんね。どうぞお急ぎください。」
「いやいや、良い良い。どうしてもアレックスと話をしたかったんだ。ホンの数分くらいなら大丈夫だ。」


本当に大丈夫なのかしら?
今のアイオロス様は、額に汗は掻いているし、威厳がある筈の法衣の首元はホックが外れて乱れているし、肩のところまで腕捲りをしてしまって、身だしなみに厳しいサガ様が見たら、カンカンに怒るだろうなというお姿だ。
もし、これが執務に嫌気が差してエスケープしてきたのなら、ココでお喋りなんてしている場合ではない。
だって、私がサガ様に大目玉を食らっちゃうもの!


「正式に決まったんだってね。宮付き女官としての採用。」
「はい。お陰様で無事に研修を終える事が出来ました。」
「そうか、良かった。で、アレックスにさ、お祝いの品を贈ろうと思って。」
「えっ?! そんな、お気持ちだけで十分です!」


アイオリア様に引き続いて、アイオロス様にまでお祝いを頂いてしまうなんて、申し訳なくて、勿体なくて。
でも、ニコニコ笑顔の彼は、私の遠慮など受け入れてくれそうにない。
というか、笑顔の裏に潜む無言の圧力が凄くて、断るなど無理だと気付かされる。


「そんな大層なものじゃないから、気にしなくて良い。ほら。」
「……映画の券?」


差し出されたのは、映画の前売りチケットが二枚。
それも、流石はアイオロス様といったところで。
見落としなく相手の事を見ているというか、私の好みをちゃんと把握している。
この映画、絶対に私が観に行きたいと思う種類の映画だもの。


でも、何で二枚?
こういう時は普通、自分に一枚、相手に一枚じゃないの?


「必ず俺と行かなきゃならないって事じゃないからね。」
「……え?」
「ほら、俺はアレックスより年上だし、同じ黄金でも、リアやミロと違って役職も上だからさ。キミからすれば、一緒に行くのが嫌でも、断り難いだろ?」


確かに、アイオロス様から言われてしまうと、私のような女官では、断り難いを越えて、ほぼ強制になってしまう。
しかも、この笑顔。
爽やかなのに迫力があるというか、何となく後々の事が恐ろしくなって、拒否なんて出来そうもない。


「だから二枚ともアレックスに渡すよ。一緒に行く相手は、キミが好きに決めれば良い。俺でも、俺じゃなくても、アレックスが一緒に観に行きたい人を誘えば良いよ。」
「は、はぁ……。あの、ありがとうございま、す?」


余裕があるというか、自信たっぷりというか。
シュラ様とは、また別の意味で大人だなと思う。


「ちなみに、俺は次の金曜日が休みだから。アレックスも同じだったよね?」
「……は、はい。」


だけど、しっかりと念を押す事も忘れない。
これぞアイオロス様だけが為せる業。
強要はしていないように見せ掛けて、選択を迫る。
しかも、自分が一歩上の位置にいる状態で。


ヒラヒラと手を振りながら、足早に去っていくアイオロス様の後ろ姿を、窓の外に眺めながら、私は二枚のチケットを手に困惑していた。
好きな相手を誘えば良いとは言われても、この場合は、やはりアイオロス様を誘わないと失礼になるのだろうか。


昨日・今日と、声を掛けてくださった聖闘士様達の顔を思い浮かべる。
空回りしている姿が可愛いアイオリア様。
自信満々なのに甘えん坊なミロ様。
大人の落ち着きと色気が魅惑的なシュラ様。
そして、余裕たっぷりに私を引っ張るアイオロス様。
それぞれが、それぞれの魅力に溢れていて、誰が一番かなんて決められない。


自分がこれから勤めるべき宮を決められないのと同じ。
誰を誘えば良いのか、それすらも決められそうにない自分の意志の弱さ。
その優柔不断さに、溜息を吐きたくなった。



彼がくれたもの、それは
映画のチケット(二枚)



‐end‐





笑顔でゴリ押しなロス兄さんは、それで全てのオナゴを落とせると思っていると良かです(爆)
こういう『余裕たっぷりなのに強引』なアプローチは、笑顔が(胡散臭い)ロス兄さんが一番似合いますよねw

2014.08.30

→???


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