キミとXmasC



「器用なものだな……。」


まるでプロが作ったような、いや、それ以上に美しく飾られたリースを見上げ、カミュはボソリと呟いていた。
デスマスクの手によってプライベートルームの扉に掛けられたリースは、ただそこに在るだけで、暗い宮内の雰囲気を、一気にクリスマスの華やいだものへと変える。
柊の葉と赤い実、金のモールとキラキラ輝く小さな星達。
今ある不浄を祓い、新たな幸せを導いてくれる、そんな予感を含んだ小さな煌めきの輪。


「芸術的なセンスは、貴方には敵わない。私では、とてもこんなに綺麗には出来上がらないだろう。」
「おー、もっと褒めてイイぞ。好きなだけ褒めろ。」
「これを白羊宮まで、全部の宮に飾っていくのか? 大変だな。」
「まぁな。でも、まぁ、悪くない仕事だ。」


そう言って、デスマスクがチラと視線を送った先に居るのは、彼の傍らに控えていた女官。
どうやら二人で、このリース飾りの仕事を任されているらしい。
普段なら面倒臭がるデスマスクが、こうも楽しげに仕事をこなしているのは、きっと彼女と一緒だからだ。
そうと気付き、カミュは少しだけ寂しい気分になった。


今日、カミュがアテナから仰せつかった仕事は、それを仕事・役目と言って良いのか怪しいものだった。
パーティーの終盤、会場の灯りを消した時、窓の外に雪を降らせて欲しいという、クリスマスの雰囲気を盛り上げるための演出を頼まれており、目下のところ、それ以外の役割は任せられていない。
つまり忙しく働く他の黄金聖闘士達とは違い、カミュは一人、自宮で暇を持て余していたのだ。


カミュは宮の前に立ち、磨羯宮へと下りていく二人を見送った。
溜息混じりに吐いた息が白く曇る。
今日は朝から妙に気温が低かった。
一年中温暖な気候のギリシャでも、こうして大きな寒波が訪れる事もある。
しかも、この聖域は標高の高い山奥に位置する。
数年に一度の割合で、稀に雪が降る事もあるのだが、どうやら今夜辺り、その数年に一度が起きそうな気配だった。
そうなれば自分の仕事は皆無になってしまう。
必然的に、カミュの溜息は更に深くなる。


「……アレックス?」


十二宮の階段を見下ろすカミュの視界に飛び込んできたのは、デスマスク達と入れ違いにコチラへと上ってくる女性の姿だった。
真っ白な女官服の上に、真っ白なコートを羽織り、そして、彼女の吐き出す息も真っ白だ。
大きな紙袋を抱える華奢な手は、寒さで赤く染まっている。


「どうしたのだ、アレックス? このような寒さの中、手袋も着けないで。」
「それが……。」


理由を聞けば、ケーキの仕上げに使う粉砂糖が切れていたため、急遽、アレックスがロドリオ村まで買い出しに行く事になったらしい。
だが、慌てて出掛けたために、手袋を忘れてしまったのだと。
それに気付いたのは、買い物が終わって、さぁ帰ろうと思った時だったという。


「自業自得です。慌てて確認をしなかった自分が悪いのですから、仕方ないんです。それに、教皇宮までは、あと少しですから。」
「それにしても真っ赤で痛々しい。アレックス、手を……。」
「カミュ様?」


言われるがまま差し出した右手を、カミュの手の平が、そっと包み込んだ。
ふわりと優しく包み込む手は、長く繊細な指をしてはいても、やはり男性。
しかも、闘士の手。
その大きさは、アレックスの手を簡単に覆い隠してしまう。


「どうした、アレックス?」
「いえ、その……。カミュ様は凍気を操る聖闘士様ですから、手や肌も冷たいのだとばかり思っていました。」


だから、包み込む手の予想外の温かさに、アレックスは驚いてしまったのだ。
思わずビクリと身体を震わせてしまうくらいに。
意思に反してドキドキと高鳴る心音を、相手に悟られはしまいかと、手を引っ込めようとするアレックス。
だが、強く握り込んだカミュの手は、それを許さない。


「アレックス、紙袋を。」
「……え?」
「私が持っていこう。」
「で、でも……。」
「どうにも、この手を離し難い。ならば、私も共に行くしかないだろう?」


つまりは、こうして手を繋いだまま、教皇宮まで歩いて行こうという意味。
きっと、色んな人達が行き交うであろう十二宮の階段と、教皇宮の廊下と、それから……。


ジワジワと頬が染まっていくアレックスの顔を眺めながら、カミュは小さな笑みを零す。
どうやら退屈な時間は、これで終わりそうだ。
パーティーまでの数時間は、彼女と楽しく時間を潰せば良いのだから。
羞恥に染まる頬とは別に、この寒さで赤く染まったアレックスの鼻先を、カミュは愛おしげに指先で触れた。
それから、繋いでいた手に力を籠めて、問答無用に宮の外へ向かって歩き始めた。


見上げる空は暗い灰色。
今にも雪が舞い始めそうな冷たい空気が、聖域を包み込んでいた。



幸せを運ぶ赤鼻のトナカイさん



‐end‐





我が師は自然体なのか、狙ってやっているのか分からない匙加減で、丁度良いと思ったり何だり^^

2013.12.19


→???


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