「ンじゃ、まぁ、悪い虫は、もうどっかへ飛んでっから、後は勝手にどうぞ、お二人さん。」


突然、クルリと向きを変え、足を止めたデスマスク。
直ぐにも追い付いた私達が彼の真横へ並ぶと、そのアクの強い顔に、いつものニヤリとした笑みを浮かべて、私とアレックスの肩を同時にポンッと叩きながら、デスマスクは私達の間を通り抜けていった。


「オマエ等も、もう『鈍い』とか、そんな事で誤魔化せる年でもねぇだろ。問題も片付いた事だし、前に進む時期なンじゃねぇの?」
「デスマスク……。」
「デスマスク様、あの……。ありがとうございました。」


言うが早いか、もう足早に宝瓶宮の方へと階段を下り始めたデスマスクの背中に向かって、アレックスが深々と頭を下げる。
私は心の中でだけ感謝の言葉を述べて、少し長めの瞬きをした。


「さて、と……。アレックス。」
「はい、アフロディーテ様。」
「キミも少しずつ身辺整理をしなければな。」
「身辺整理、ですか?」
「三ヶ月もあれば、あのボンクラな女官達にも引継ぎは出来るだろう。それが終わったら、キミは教皇宮から退職だ。」
「では、私も聖域から立ち去るべきなのですね……。」


スッと暗い影が落ちるアレックスの顔に、私はそっと手を伸ばし、滑らかな白い頬に触れた。
彼女は勘違いしている、彼等が裁かれるなら、自分も聖域から出て修道院にでも入らなければいけないのだと。
私は小さく微笑むと、アレックスの肩に手を置き、直ぐ目の前に迫っていた自分の守護する宮を指差した。


「残念ながら、聖域の外にキミの行き場はない。ほら、見て。キミの次の就職先はココだよ。」
「え……?」
「仕事は沢山ある。薔薇達の世話もしなければならないから、朝早くからね。」


私の言葉の意味が直ぐには飲み込めずにキョトンとして、目を見開き立ち止まっているアレックス。
少しだけ身を屈めて、私はその耳元に小さく囁いた。


「勿論、仕事は深夜まで……、ね。」


途端、私の言葉の意味の全てを理解したアレックスが、真っ赤に顔を染める。
白く美しい顔が、今は真っ赤な林檎のように色付いて。
いつも冷静沈着な彼女がみせた驚きと焦りの入り混じった表情は、それはそれで世界中の誰よりも可愛らしいと思えた。


「あの……、あの、私……。」
「私の元へ来るのは、イヤかな?」
「そ、そんな事は決して!」


顔を赤く染めたまま、私の腕をガシッと掴み、混乱と焦りと慌しさと、色んな表情を浮かべて見上げてくるアレックス。
今日一日で、彼女の色んな表情を見た。
涙を零した彼女も美しかったが、様々な感情を豊かに浮かべた今のアレックスも、私には愛おしく感じられる。


「じゃあ、良いんだね?」


ハッとして俯いた後、そのままゆっくりと頷いた彼女をギュッと抱き締める。
腕の中に感じるアレックスの体温に、私はずっと、この温もりを求めていたのだと気付いた。
自分でも気付かぬうちに彼女を想い、自分でも気付かぬままに彼女を欲した。
もうずっと長い間、私の心はアレックスを愛していたんだ。


ギュッと抱き締めたまま力を緩めずに、再び彼女の耳元に囁く。
彼女だけが受け取れる、彼女だけに向けた、私の想い、愛の言葉を。
そして、小さな耳の傍から離れゆっくりと下りていった私の唇は、温かな熱を含んだアレックスの艶やかな唇へと、引き寄せられるように重なった。



‐end‐





ブログ連載第五弾。
アフロディーテと才色兼備のスーパー女官さんとの恋愛夢、如何だったでしょうか?
いや、まずはお詫びですね。
完結までに恐ろしく時間が掛かってしまい申し訳ありませんでした(滝汗)
ラストをどうしようかと悩んでいる間に、あれよあれよと時間が経ってしまいまして……、スミマセン。
この作品は、サイト開設前に書いていた未完成の夢をUSBの中から発見しまして、そのままお蔵入りも勿体無いしと、ブログ連載として書き直したものです。
といっても、蟹さんとの交際が発覚した辺りからは、全く新しく書いたものですが。
年中組三部作にしようと思っていたものの、結局は、単発ものの作品になってしまいましたが、これはこれで楽しんでいただけたら幸いです^^

2009.12.13



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