「デスマスク様は、以前、交際していた方ですもの。昔の恋人に、頼み事なんて出来ませんわ。しかも、このような頼みなど……。」


な、に……?
恋、人……?
デスマスクとアレックスが、恋人同士だった?
知らないぞ、私は。


「そ、それはいつの事だい?!」
「……え?」
「今、デスマスクと付き合っていたと言ったじゃないか。一体、いつ?」


そうだ。
私は、あの男の恋愛遍歴なら全て把握している。
だが、アレックスと交際していたなんて、聞いた事もなければ、それらしき素振りすら見た事なかった。


「十七歳の時でしたから、四年ほど前でしょうか? お付き合いさせていただいた期間は、一年とちょっとでしたけれど。」
「四年前……、一年間……。」


薄ぼんやりと記憶が蘇る。
そう言えばアイツ……、女性には見境がなく、だらしなくて、不真面目極まりないあの男が、だ。
一時期、まるで興味がなくなったみたいに、女遊びをピタリと止めた時があったな。
確か、あの男が十九歳くらいの時だったから、彼女の話とピッタリと合致する。
そうか、それがアレックスと交際していた時期だったのか。


「驚いたな……。全く知らなかったよ。」
「当時は『俺達の関係は黙ってろ、他人にはバレないようにしとけ。』って言われていましたから。それも今では時効ですけれど。」
「アイツ……。」


今の私は、きっと苦虫を噛み潰したような顔をしている事だろう。
鏡など見なくたって分かる。
心の奥が、こんなにも苦々しく引き攣っているのだから。


「なんでまた、あんな不誠実な男と……。正直、キミらしくないと言うか、似合わないと言うか、不釣合いと言うか……。」
「良い方でしたよ? お付き合いしている間は、とても大切にしてくださいました。楽しい事、嬉しい事、切ない事も、色んな事を教えてくださいましたわ。あの方から学んだ事が、沢山あります。」
「キミの口から、あの男の褒め言葉なんて聞きたくない。」


どうやら私が不貞腐れてしまったと、アレックスは気付いたのだろう。
初めは、ただキョトンと見ていた彼女が、今度はクスクスと笑い出す。
そうだな、今の私はまるで子供。
分かっているが、どうにも納得がいかない。
この私にすら黙って、隠れてアレックスと付き合っていただなんて、そんな事。
今度、デスマスクのヤツに会ったら、とっちめてやらなければ。


「それにしても、キミのような美人と付き合っているのを隠すなんて、デスマスクらしくないな。アイツなら、自慢して見せびらかすくらいはしそうなものなのに……。」
「恥ずかしいからと、そう仰っていましたけれど……。今更、私と付き合っているなど知られたくないって、その頃は言っておりましたわ。」


成る程ね。
アイツも本気だったって訳か。
自分の素行の悪さを重々理解していたから、そのせいでアレックスの評判をも落としてはいけないとの配慮。
後は、照れ隠しもあるだろう。
皆にからかわれて冷静でいられる程、アレックスへの想いは浅いものじゃなかったって事だな。


「で、別れた理由を聞いても良いかな?」
「理由ですか? 私が振られたのです。『お前は完璧過ぎて疲れる。』と、そう仰って……。」


ふっ、別れ方までデスマスクらしい。
だが、多分、それは本当の理由じゃない。
もっと別の何かがあって、でも、敢えて、それを彼女には告げなかった。
何があって彼女を振ったのか。
後で首根っこを吊るし上げて、あの男に白状させてやろうと、この時、私は心の奥で思った。





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