黄色に光る



何て言ったら良いか……。
普段は気丈でしっかり者な女の子ほど、不意にみせる気弱な姿には、心揺さ振られるもので。
つまり何が言いたいのかというと、俺はアレックスの流した涙に激しく動揺し、同時に、アレックスという人間に大いに心惹かれてしまったのだ。


「ごめんねぇ、ミロ。直ぐに泣き止むから。」
「いや、そんな無理に止めなくても……。」


それは偶然だった。
俺が通り掛かった時、木立の向こう側から聞こえてきた微かな音――、それが声を殺した啜り泣きと分かって、何事かと覗き込んでみたら、アレックスが身体を小さくして蹲っていたのだ。
そっとしておいてやるなんて、そんな気の利いた考えが思い浮かぶ間もなく、オタオタと慌ててしまった俺が、「どうしたんだ、アレックス?」だなんて、大きな声で尋ねてしまったものだから、彼女にはバツの悪い思いをさせてしまった。


アレックスは最初こそ吃驚した顔で俺を見上げたけれど、直ぐに涙を吹き飛ばすように多少ぎこちない笑みを顔いっぱいに浮かべてみせた。
あ、やってしまった……。
年若い女の子が、たった一人、慣れない場所で頑張っているんだ。
ふと緊張の糸が切れて泣きたくなる事だってあるだろうに、俺とした事が、何て間の悪い……。


結局、俺はアレックスの傍から立ち去る事も出来ず、彼女が泣き止むまで、その隣で座って待つ羽目になってしまったのだが。
俺に迷惑を掛けまいと一生懸命に涙を止めようとする、その様子、そのひた向きさに、つい目を奪われてしまう自分。
この時、アレックスという人間の魅力が、涙と一緒に頬に浮かんで光っているように、俺の目には映ったのだ。


「それ、何かあるのか?」
「え……?」


気になったのは、膝の上でキツく握り締められた右手。
その手の隙間から、何かが覗いている。
それが涙の原因なのかと思うと、聞かずにはいれなかった。
本来なら見て見ぬ振りをするべきなんだろうけど、声を掛けてしまった時点で、既に空気など読めていない俺だ。
こうなれば、とことんまで突っ込んでしまえと、何処か放っておけないアレックスの性格に付け込んで、グイグイと聞き出そうとする。


「見て。」
「これ、いつもしてるヤツじゃ……。」
「うん、そう。」


開いた手の中には、アレックスが常に肌身離さず首から下げていたペンダントがあった。
金色の鎖が切れ、艶々と偏光色に輝く大きなシェルのトップが、真っ二つに割れている。
どうしたのかと問えば、アレックスは苦い笑みを浮かべて目を伏せた。
分かった事は、彼女を良く思わない連中に、またもや絡まれたのだろうという事。
そして、そいつ等に、そのペンダントを壊されてしまったのだろうという事。


ただ、今までどんな嫌がらせを受けても笑って流していたアレックスが、今は止めようとしても止まらない涙をポロポロと零している。
だからこそ、俺の心が、こんなにも衝撃を受けたのだと言っても過言じゃない。


「それ、形見か何かなのか?」
「ううん。形見じゃないけど、お守りみたいなものかな。」
「お守り? 大事なものって事か?」
「うん、心の拠り所みたいな感じ。まだ子供だった私が、たった一人、誰もいない海界に放り出されて、心細くて泣いていた時に、これをやるから泣き止めって、ある人がくれたの。それからずっと、辛い事がある度に、このペンダントに縋ってきたと言っても良いくらい。」


だから、このペンダントが壊れてしまったのを見た瞬間、子供の時に止めてから今まで、ずっと堪えていた涙が、一気に溢れ出してしまったのだという。
ならば、それは一体、何年分の涙なのだろう。
いや、それよりも、子供の頃の涙が戻ったからこそ、こんなにも純粋で少しの濁りもなく頬を伝い落ちていくのか。


「ミロ……?」
「無理に止めなくて良いさ。今のうちに泣き尽くしちゃえよ。で、泣き止んだら、今度は俺が新しいペンダント買ってやるから。ま、安物だけどな。」
「安物なの? ケチね。ふふっ。」


俺の冗談に笑い声を上げながらも、アレックスは頬に流れる涙を止めずにいた。
そのペンダント、彼女に渡したヤツが誰なのか、俺には簡単に想像が出来て。
それをずっと大事にしていた彼女の心が何処にあるのか、それも何となく分かってしまったけれど。
それでも、今、こうして動き出した自分の気持ちは止めようもなく、心の赴くままに俺はアレックスの頬に手を伸ばした。
そっと触れた親指をゆっくりと滑らせて、その夕陽の色に染まったオレンジの涙を拭うと、少しだけ驚いたような表情をみせたアレックスが、とても愛おしく思えた。



黄昏色の涙を一拭い



‐end‐





友達程度にしか思っていなかった相手の泣いている姿を見て、心がグラつくミロたんの巻w
彼は女の涙には弱い男だと良かですw

2015.08.02

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