ニュースの天気予報が関東地方の梅雨入り宣言をした、その日。
私の元に一通の手紙が届いた――。




コンジキノカゼ



1.発端



手紙の送り主は、離れて暮らす姉の養父だった。
送り主の住所はギリシャ。
姉は養父に引き取られて間もなく、彼と共にギリシャに移住した。


それから十三年。


たまに送られてくる姉さんからの手紙だけが、彼女の消息を知り得る頼りだったのだが。
ここ最近、その手紙も届かなくなり、何となく不安になっていた矢先に、姉の養父からのこの手紙。
私は胸中を駆け巡る嫌な予感を振り払いながら、震える手でその手紙を開いた。


『浅海さん、お久し振りです。
そして、久し振りの手紙だというのに、悲しいお知らせをしなければいけません。
私の娘――浅海さんの姉でもある浅香が亡くなりました。
五月の初めの事ですが――。』


死んだ?
姉さんが?


嘘、だ……。


嘘だ、嘘だ、嘘だ。
あの明るくて快活な姉さんが、どうして?!


病気にでもなったのだろうか?
でも、姉さんから送られてきた最後の手紙には、具合が悪いとかそんな事は一行も書かれていなかった。


震えの止まらない手のせいで、手紙が擦れ合いカサカサと音を立てている。
あまりの衝撃に、固まって動かなくなっていた手を、何とか気力だけで動かし、二枚目を捲って読み進めた。


『死因は事故でした。
何らかの不注意があったのか、高い崖の上から落ちて――。』


事故?
崖から落ちた?
それは、本当に事故なの?


聞き返したい事が沢山あったが、問い質す相手は目の前にはいない。
私は煮え切らない思いを胸に、ただその淡々とした字の羅列を、いつまでもジッと眺めていた。





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