全ての料理を食べ終わり、私達の前にあるのは水の入ったグラスと、飲み掛けのアルコール。
私の視界の中で、シュワシュワと小さな音を立てるビールが、グラスに汗を掻く程に温くなっていくのが映る。


「あ〜、何かアレだな。考えれば考える程、どいつもこいつも怪しく思えてくる。」


私自身はまだ彼等――、黄金聖闘士達を知らない。
カノンの説明の中に出てくる彼等では、いまいちピンとこないのが実状だ。
誰がどう怪しく感じられるのか、それすら分からない状態に、モヤモヤとしてしまうのは仕方ない事なのだろうが……。


「気を付けろよ。」
「……え?」


不意に、真剣な眼差しを向けて、真っ直ぐに私を見据えたカノンが、ボソリと告げる。
意味が分からずに、私はただポカンと聞き返した。


「場所は聖域。相手は黄金聖闘士。一般人の浅海には危険過ぎる場所だ。」
「あ。そう、よね……。」


話を聞く限り一癖も二癖もありそうな彼等を相手に、素人も良いところの私が探り事など出来るのだろうか?
しかも、相手は人とは思えない程の力を持った人達だ。
私なんか、掴まってしまえば、一溜まりもないに違いない。


「俺がずっと付いててやれれば良いんだがな。向こうに帰ったら直ぐにも、また海界へ戻る予定だし。」
「あれ? 海界の方はもう落ち着いたから、他の海将軍達に任せられるって言ってなかった?」
「仕事に関してはな、俺はもう聖域側の人間だ。今回は俺の都合、私事ってヤツだ。」


そう言って、温くなったビールを煽ったカノンの様子に、私はピンときた。
それは女の勘とでも言うべきだろう。
女の子というものは、こういう時に、妙に勘が冴える生き物らしい。


「分かった。海界に待ってる女性がいるのね。」
「は? な、何で、それを?!」
「あ、やっぱりそうなんだ。」


驚いた弾みにビールが気管に入ってしまったのだろう。
カノンはゴホゴホとむせて、慌てておしぼりで口元を押さえる。
そんな彼の姿を見ながら、私はクスクスと笑った。


「お前、そんな事言って俺をからかうなら、守ってやらんぞ。」
「どのみち聖域に着くまでなんでしょ?」
「まぁ、そうだが……。」


溜息が出るくらい整った綺麗な顔しているのに、何処か少年ぽいというか、やんちゃな感じの残るカノン。
恋人としての彼も、きっととても魅力的なのだろう。
海界で待つ、その女性が羨ましく思える。


「アテナは暫くは日本に留まったままだし、シオン様に事情は知らせてあるとはいえ、教皇であるあの方も毎日が多忙だ。浅海を守ってやれる保障はない。」
「うん……。」
「白銀の女聖闘士辺りに護衛を頼んでも良いが、相手は黄金。ならば、あまり役にはたたないだろうし。」


どれ程の危険が待っているのか。
考えれば身が竦むほどに怖い。
だが、行くと決めたからには後には退けない。
退くつもりもない。


「大丈夫、十分に気を付ける。無理はしない。」
「約束だぞ。」
「うん……。」


約束……。
何処まで守れるのか、今の私には全く分からない。
聖域で待っているもの、私が知らなければならない事、突き止めなければならない事。
そのために、自分の身を危険に晒す事が私に出来るのか。
そんな勇気が私にあるのか。


何も分からない。
分からないけど、でも……。
でも、やらなければいけないのだ。
姉さんの死に辿り着くために、これが私に課せられた使命なのだとしたら。





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