目が覚めたのは、耳に優しい鳥のさえずりと、閉じた瞼の裏に広がる朝の光のためだった。
ゆっくりとゆっくりと、時間を掛けて夢の世界から意識が引き上げられて、自然に目が覚めていく感覚が心地良い。
この数日間、まだ眠い意識と身体を、無理矢理に起こしていたという事もあって、今朝の目覚めは実に清々しい気分だった。


「ん……。」


自然に目が覚めるのに任せて、徐々に開いてハッキリしていく視界には、褐色に日焼けした肌が映る。
私はアイオリアの首筋に顔を埋めて眠っていたらしい。
少し肌蹴たバスローブの隙間からクッキリとした鎖骨が覗いていて、思わず指を伸ばして触れたい衝動に駆られた。
それよりも、二人共にバスローブを纏ったまま眠っていた事に、新鮮な驚きを覚えて、小さくクスリと笑ってしまう。


「……ふふっ。」
「ん? 起きたのか、浅海?」
「うん。アイオリアも起きてたの?」
「いや。今、目が覚めた。」
「じゃあ、私と一緒ね。」


頭上から聞こえた声に顔も上げず、彼の首筋に埋もれたままで朝の挨拶を。
いつものように素肌が触れ合う感触とは違う、柔らかなバスローブの肌触りを楽しみながら、アイオリアの腰にギュッと手を回す。
だが、結局は我慢が出来なくなって、人差し指を伸ばして彼の鎖骨をそっと辿った。


「……擽ったい。」
「擽ったいだけ?」
「誘っているのか?」
「折角、ゆっくり休めたのに、誘う訳ないじゃないの。」


クスクスと笑いながら、心地良い朝のひと時。
恋人同士、激しく愛を交わして気だるい朝を迎えるのも、それはそれで良いんだけど、こういう朝も悪くはないと思うのは私だけかしら。
アイオリアは、もしかして我慢してる?


「珍しい事もあるのね。疲れてたの?」
「俺が疲れていたように見えたか?」
「……全然。」


鎖骨をなぞる指を止め、少しだけ顔を上げて見上げる。
すると、思うより近くに彼の顔があって驚く。
彼はその精悍な顔に苦い笑みを浮かべていた。


「疲れていたのは、浅海の方だ。」
「もしかして、私を気遣ってくれたの?」
「まぁ、それもあるが……。それよりも、浅海が泣いた姿を、初めて見たからっていうのもあるな。」
「え……?」


見つめる瞳の中で、至近距離の彼の表情がスッと真剣なものに変わる。
朝日の眩しさの中、戯れにじゃれ合っていた筈が、途端に変化した空気に胸が高鳴るの。


「ずっと堪えてたのだろう? 色々と心に溜め込んでいたんだな。堰が切れたように泣く浅海の姿を見て、愛を交わすよりも、ギュッと抱き締めていてやりたいって、そう思った。」


やっぱり、彼は優しい。
幼い頃に自分がいっぱい傷付いた分、人の心の動きに敏感なんだ。
この腕の中は暖かい。
そして、何処よりも、誰よりも安心出来る。
ギュッといっぱいに包まれている、この感覚が、後にも先にもない、たった一つの幸せな場所だと私に伝えてくれるの。


「ありがと、アイオリア。」
「礼などいらん。その代わり……。」

昨夜の分も今夜は寝かせんぞと、耳元に囁かれた彼の熱っぽい言葉に、私は耳の先まで真っ赤になった。


→第19話へ続く


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