豪華な部屋の真ん中。
そこには、これ見よがしにキングサイズの大きなベッドが備え付けられていた。
ゲストルームなのだから当然といえば当然なのだが、今のアイオロスにとっては非常に心臓に悪かった。
しかも、そんな彼の腕の中、愛しのアシュは無防備に眠りこけている。


「ふぅ。どうしたもんか……。」


とりあえず、このままという訳にもいかない。
抱いていたアシュをベッドの上にそっと下ろすと、「んっ。」という小さな声を上げる。
それがまた、眠り顔の幼さの中に仄かな色気を感じさせ、余計にアイオロスの胸の奥を刺激する。
これはいけない、これはマズい!


この状況下、ドンドン理性が薄れていきつつある自分の心の動きに焦りを覚えたアイオロスは、一旦、彼女の眠るベッドから離れた。
何とか冷静にならなければ。
そうだ、カミュのようにクールになるんだ、俺!
そう自分の胸に言い聞かせながら、ふと気付く。


そう言えば、今朝方、任務から戻ってきてからというもの、そのまま仕事に追われてしまい、シャワーすら浴びていない。
このまま眠ってしまうのは、あまりに不潔だ。
もし、まかり間違ってアシュとそういった事になったとしたなら、尚更だろう。


急ぎシャワー室に飛び込んだアイオロスは、着ていた服を脱ぎ捨て、冷たいシャワーの雨の中へと飛び込んだ。
全身を容赦なく打ちつける強いシャワーの水が、逆上せていた頭を徐々に冷ましていく。
身体も頭も心も十分に冷えて、冷静な思考を取り戻したところで、アイオロスはやっと落ち着いて自分らしい考えが出来るようになった。


そうだ。
例え、シュラやサガが何事かの思惑を抱いていようと、自分が激しく彼女を欲していようと、全てはアシュ次第ではないか。
彼女が「イエス。」と言わない限り、その先の展開は期待出来ない。
まして、このようにアシュの意識がない状態で、自分だけが勝手に暴走してしまう訳にはいかないのだ。
十三年もの間、逆賊であった自分をずっと変わらず想い続けてくれたアシュだからこそ、そうなる時は、互いの気持ちが一致した時じゃないといけない。
アイオロスは、そう思った。


シャワー室から出ると、アシュは大きなベッドの上で身を小さく丸めて、幼い少女のようにあどけない顔をして眠っていた。
その横にアイオロスが滑り込むと、暖を求めてか、無意識に身を摺り寄せるアシュ。
その柔らかな身体を腕の中に抱き込むと、アイオロスは少し汗の匂いのするアシュの髪に顔を埋めて目を閉じた。


少女のような寝姿でも、こうして腕に抱き締めれば嫌という程に大人の女性の身体を突き付けられる。
それでも、今はもう理性と戦う必要などなかった。
心穏やかに目を閉じたアイオロスは、ただただ『愛おしい』という想いと共に彼女を抱き締め、そうする事が出来る喜びを噛み締めて、自分も深い眠りの世界へと落ちていったのだった。



→第12話へ続く


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