昼食後、キッチンで後片付けをしていたアシュ。
軽く鼻歌なんか歌いながら作業をしていた彼女の耳に、バタバタと慌てた足音が聞こえてきた。
それは、リビングで寛いでいた筈のアイオリアの足音だった。


――バタバタ、ドタドタ!


「アイオリア、どうかしたの?」
「いや、ちょっと、急に呼ばれてな。教皇宮まで行かなきゃならないんだ。」


あまりに慌てた様子の足音が気になり、片付けの手を止めて、キッチンからリビングへと顔を出したアシュ。
見れば、アイオリアが慌てて身支度を整え、直ぐにも出て行こうとする気配。
休日だからと油断して寝癖の付いたままになっていた金茶の髪を撫で付け、何とか見た目だけでも整えようとして悪戦苦闘しているアイオリアの姿が、何処となく滑稽に見えた。
が、それを笑ってはいけないと、アシュは浮びそうになる笑みを必死で堪える。


「急用?」
「そうだと思う。悪いが、後は適当にしておいてくれ。」


そう言い残すと、アイオリアはアシュの返事も待たずに、獅子宮のプライベートルームから出て行ってしまった。
一人、残されたアシュは小さな溜息を吐くと、とりあえずとばかりに片付けの続きを終わらせるため、キッチンへと戻る。
洗い物を終え、お皿を棚へと片付けてしまうと、する事が何もなくなってしまった彼女は、ソファーの上に散らかった雑誌を綺麗に整頓してから、磨羯宮へと戻った。


聞いている予定では、シュラは夕方まで戻らない。
アイオロスも、任務を終えて戻ってくるのは明日の予定だ。
アイオリアも急用で呼ばれたとあっては、話し相手になる人もいない。
ここ最近、ずっと一人の時間を持つ事もなかったので、急に一人ぼっちになってしまったアシュは、少々、戸惑いを覚えていた。


だけど、たまには一人きりの時間というのも良いかもしれない。
長い十二宮の階段を上りながら、アシュは久々にブラブラと辺りを散歩でもしようかと考えた。
そういえば読み掛けの本もあった、それを読んでしまった方が良いかしら。


この後の予定を頭の中でアレコレと考えていたら、いつの間にか人馬宮を抜けて、磨羯宮まで辿り着いていた事に気付き、アシュはクスリと自分自身を笑った。
考え事をしていると、いつの間にか時間って過ぎているものなのよね。
あの長く苦痛な上り階段も、あっという間に上りきっていた事に驚きもあり、おかしさも感じる。
結局、この午後は読書をする時間にしようと決め、アシュは読み掛けの本を手に、磨羯宮の大きなソファーに沈んだ。





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