「この美味い料理だって、兄さんが独占しているのだろう? 何だか兄さんばかりが良い思いをしているような気がしてくるよ。」
「だったら、夕食は人馬宮へ来たら、どう?」


シュラは余程忙しい時でない限り、夕食は自分で作る。
そのため、アシュは人馬宮でアイオロスのために夕食を作り、そのまま一緒に食事をして、それから磨羯宮へと帰っていくのが常だった。
だから、アイオリアも人馬宮の夕食に加われば良いのよと、そう簡単に言ってのけるアシュ。
そんな彼女に向かって、アイオリアは大きな溜息を吐いてみせた。


「流石の俺でも、そこまで気が利かない男じゃないよ。」
「どうして? アイオリアはロスにぃの弟なんだから、一緒に食事してもおかしくないでしょう?」
「いや、そうじゃなくて……。」


鈍いと有名なアイオリアでも、流石に兄とアシュが交際し始めた事くらい知っていた。
何がどうなって、誰がどうやって広めたのかは分からないが、今、聖域の内部で二人の付き合いを知らない者はいない。
聖域の英雄・次期教皇の呼び声高い美男のアイオロスと、女官達の中でも一・二位を争う美しさと抜群のスタイルを併せ持つアシュの組合せ。
それは『理想のカップル』だと聖域中の注目を集めているのだ。


「邪魔したら悪いだろう。後で兄さんにも恨み言を言われそうだしな。いや、恨み言よりも体力的仕返しの方が怖い。」
「あ……。」


アイオリアにハッキリと言われて、やっと気付く鈍いアシュ。
彼女は人馬宮で一日のほとんどを過ごしているとはいえ、アイオロスと共にいる時間は少ない。
朝、シュラの朝食を整えてから人馬宮へ行き、そこでトレーニングを終えたアイオロスと一緒に朝食を摂る一時間にも満たない時間。
それと、執務等を終えて戻って来た後の夕食の時間と、その後の小一時間程。
それだけが二人で共に過ごせる時間なのだ。
アイオロスにとっても、アシュにとっても貴重な時間。


それを邪魔しようものなら、間違いなく兄から『修練』と称した仕返しとも言える、激しいトレーニングメニューが待っているのだ。
それは嫌がらせに程近い、黄金聖闘士でも死に物狂いでこなさなければいけないような過酷なトレーニングになるだろう。
それを知っているからこそ、アイオリアは兄の恨みを買う事だけは勘弁だと思っていた。


「……ごめん、ね。アイオリア。」
「いや、良いさ。仕方ない。」


それでも、月に一度くらいアシュと一緒にランチをする程度の事は許して貰いたいものだ。
自分の一番大好きなアシュの作ったミートソースのパスタ、それを目の前にしながら、アイオリアはぼんやりと思っていた。





- 2/4 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -