10.本日はお留守番



ゴトリと音を立てて目の前に置かれたランチプレートには、温かな湯気の上がるパスタが、食欲を誘う香りと共にたっぷりと盛られていた。
同じ皿の右側に盛られたサラダが彩りも鮮やかに視覚を捉え、更にアイオリアの食欲を増幅させる。
トロリと程良いミートソースと、削りたてのチーズの混ざり合う香り。
そして、その上に乗せられた半熟卵の誘惑には、獅子座の黄金聖闘士であるアイオリアでも打ち勝てず、それを運んできた相手が席に着くのも待てずに、「いただきます。」の声を上げて、フォークを薄い卵の膜へと突き刺した。


「美味い!」
「ふふっ。ありがと、アイオリア。」


アシュが向かい側へと座った頃には、トロトロの半熟卵が混ぜ合わされたパスタを、既に口いっぱいに頬張っていたアイオリア。
そんな彼の様子を見て嬉しそうに微笑みながら、アシュもフォークを手に取り、パスタを食べ始める。
うん、今日のパスタは茹で加減も絶妙だし、ミートソースの味もアイオリアの好み通りに濃い目で美味しく出来ているわ。
フォークに絡めたパスタを一口含み、アシュは自分の作った料理に納得の笑みを浮かべた。


今日は、シュラもアイオロスも聖域の外へと任務に出ていていなかった。
一方のアイオリアは本日が休暇日という事もあり、獅子宮でのんびりしているという。
それを聞いたアシュは、久し振りにアイオリアとランチでもと思い、獅子宮までわざわざ下りて来たのだ。


「久し振りだな。アシュと二人、こうして食事をするのは。」
「そう、ね。言われてみれば久し振りかも。」
「兄さんが戻ってきてからというもの、そっちに掛かりっきりだからな、アシュは。俺もたまには、こうしてアシュと過ごしたいのだが、どうにも兄さんに独占されていて困るよ。何しろ、兄さんの視線が怖くて、誘おうにも誘えない。」


基本的にアシュは、磨羯宮付きの女官という立場である。
シュラの身の回りの世話と磨羯宮の保守管理が最優先の仕事なのだが、何分、大抵の事は自分で出来てしまうシュラは、あまりアシュの手を煩わせる事はない。
つまりは、アシュにとって手持ち無沙汰な時間が多くなり、暇を持て余す事が多かった。
そのため、そんな時間を使って頻繁に獅子宮へと足を運んでは、アイオリアと食事をしたり、部屋の掃除をしてみたりなどしていたのだが、それは以前の話であって、今は違う。


現在では、アシュの空いた時間のほぼ全てが、家事能力ゼロのアイオロスの面倒をみるのに費やされてしまい、獅子宮まで下りてくる時間など僅かにも残らない。
お陰で、兄が戻ってきてからというもの、アシュと食事を共にする機会すら持てなくなってしまった。
妹のように共に過ごしてきたアシュとの楽しいひと時、それを全て兄に奪われてしまったアイオリアは、心の内に不満を抱えていたのだ。





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