「これはアシュの兄としての頼みだ。どうかアシュと共に歩む事を躊躇わないでくれ。あの子の願いだ、次の別れの時が来るまでは、貴方の傍に置いてやって欲しい。」
「シュラ……。」


心の底からの想いが籠められた、真摯な言葉だった。
実直なシュラの性格そのままに、真っ直ぐな心をアイオロスへとぶつけてきた言葉。
アシュを好きならば、彼女を愛しているのなら、アイオロスはその言葉をしっかりと受け止めなければならなかった。


「言われなくても分かっているさ、シュラ。俺は誰よりもアシュの事を愛しているからな。」


そう言って、シュラの肩をポンと叩くと同時に、それまで消えていたいつもの爽やかな笑顔が、アイオロスの顔に戻る。
それを見ても全くと言って良い程に表情に変化はなかったが、それでも、シュラがホッと安堵の息を吐いた事に気付かないアイオロスではなかった。


全く、駄目な男だな、自分は。
心の中で、アイオロスは独りごちる。
年長者として彼等を導くのが役割の筈なのに、逆にこうして教えられている。
俺達も今と昔では変わったと言っていたが、シュラだけが大人になって、自分は少年の頃から何一つ変わっていないようにアイオロスには感じられた。


「それにしても、どうして俺の考えてる事が分かったんだ?」
「ハッキリと顔に出ていたからな。貴方は分かり易過ぎる。」
「そうか? それが普通だろ? シュラが無表情なんだよ。それと比べるからいけない。」
「この顔は生れ付きだ、仕方ないさ。それよりも、だ。早くアシュを女にしてやってくれ。何せ俺達は、明日にも死ぬかもしれないのだからな。もたもたしてはいられん。」
「なっ?!」


思いも掛けないシュラの言葉に、今度は絶句した。
今日はどうした?
何から何までペースを乱されっ放しだ。


「何なら、明日にもアシュをココに引っ越しさせるが、どうだ?」
「だっ、駄目だ、駄目だ! そんな事をしては、俺の理性が持たん! 一緒に暮らすなどしては、間違いなく襲ってしまうぞ!」
「別に構わないだろう? もう恋人同士なのだし、アシュも貴方とそうなる事を望んでいる。」
「しっ、しかしだな! まだ付き合ってから数日しか経ってないのだぞ! そんな直ぐには……。」


本日、二度目の慌て振りを披露するアイオロスを横目で見ながら、シュラは余裕たっぷりな様子だった。
口元は気持ち口角が上がり、薄っすらと微笑んでいる。
が、そんなシュラの表情にも気付かず、アイオロスは完全なパニック状態に陥っていた。


「そうか? 付き合った当日でも、おかしくはないと思うぞ。愛し合っているのなら問題はあるまい。」
「お前、それでもアシュの『兄』か?!」
「アシュは、もう二十歳だぞ。貴方が抱くのを躊躇っている間に、他の男に襲われでもしたら、どうする? それこそ不幸ではないか。アシュが早く貴方のものになるまでは、俺は気が気じゃない。」
「シュラッ!」





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