「んっ……?!」


突然、スッと近付いてきたアイオロスの唇が、アシュの艶やかな唇を塞ぐ。
重なり合った唇は、始めは軽く触れ合っていただけだったが、時間が経つ毎にじっくりと押し付けられ、熱い唇の感触がダイレクトに伝わるものに変わった。
そして、ふと離れたと思うと、また重なり、啄ばむようなキスが繰り返されていくうちに、次第に深まっていき。
気付けば、しっとりと濃厚に絡み合うキスにまで深められている。
いつの間にか巧みにアイオロスに導かれていたのだ。
呆然と霞む意識の中、アシュはそれを受けているしか出来なかった。


アイオロスの事だけを想い続け、男性と付き合った経験のないアシュにとって、これはファーストキスと言って良い。
挨拶で交わすキスとは違う、明らかに愛する想いを伝え合うためのキス。
愛情を深めるための、互いの気持ちを感じ合うためのキス。
その初めて体験する心地良さに、心に震えが走る。
そして、身体中にもゾクリとした何とも形容し難い、これまで感じた事のない震えが走った。
それは決して不快ではない、不思議な震え。


目眩の嵐に投げ出され、意識すら飛びそうな感覚に襲われて、アシュはココが外である事など忘れていた。
周りの景色は消え去り、重なり合うアイオロスの唇にだけ意識が集中していた。
何も見えないし、何も聞こえない。
この時、アシュの世界は『アイオロス』だけしかなく、彼が全てを占有していた。


「ん、んんっ……。」
「アシュ、好き、だ……。」


息を吐くために、一旦、離れた唇は、だが、再び熱い唇で塞がれた。
そうして、何度、離れては絡み合うキスを繰り返しただろう。
やっと二人の唇が完全に離れた頃には、アシュの方は慣れない行為で酸欠気味になってしまっていた。
彼女は、ハアハアと肩で息をしながら、酸欠とキスの余韻からくる目眩でよろめいた身体を、アイオロスの胸に預けた。


「……アシュ。」
「は、い……。」
「これで俺達は『恋人同士』になったと言って良いのかな?」


恋人同士。
その単語にパッと顔を上げたアシュが、真っ赤に顔を染める。
これまで絶対に叶わないと思っていた事、実現する事のない夢。
大好きな人の、恋人となる事。
信じられない現実に、涙が零れそうな程に嬉しくなる。


それでも――。


「あの……、私で良いの? だって、私はただの女官で……。」
「関係ないよ。俺はアシュが好きなんだ。どんなに美人で、お金を持っていて、身分の高い女性がいたとしても、俺の中でアシュより他に愛する人なんていない。」


ニコリ。
腕の中の愛しい人だけに向けて、アイオロスは太陽のような眩しい笑顔を贈る。
アシュを熱い瞳で見つめて、きっぱりと言い切ったアイオロスの言葉と、その笑顔に、今度は本当に涙が頬を伝った。
嬉しくて嬉しくて、そして、信じられないくらいに幸せで。


「今からでも遅くない。今まで辛い思いをさせた分、これからいっぱい幸せを上げるよ。だから、アシュ。俺にも幸せをくれないか。この手で。」


そっとアシュの手を取り、彼女の目の前で、また指と指を絡めるように繋ぎ合わせるアイオロス。
その繋がれた手を涙で霞む瞳で見つめながら、アシュは何度も何度も深く頷いた。
彼と幸せになりたいと、その思いを目一杯籠めて、うんうんと深く頷いた。



→第9話へ続く


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