8.重なる手と手



行き交う人々で賑わう大通りとは異なり、その公園の中は静かだった。
風が優しく木々の葉を揺らし、暖かな日差しが降り注いでいる。
アイオロスは一番人目に触れ難く、かつ、日向で見晴らしの良いベンチを探すと、アシュの手を引いて腰を下ろした。


並んで座った後も、アイオロスはアシュの手を離そうとはしない。
誰からも見られていないと分かってはいても、この『手を繋ぐ』という行為自体がアシュにとっては恥ずかしく、彼女は赤く頬を染めたまま、黙って俯いている。
だが、そんなアシュの態度に、流石のアイオロスも多少の苛立ちを感じ始めたのか。
繋いだ手を目の高さまで持ち上げて、手と手がしっかりと繋がれている事を見せ付けるようにアピールしたり、わざと彼女の恥ずかしさを煽るような行動を取った。


「あの……、恥ずかしいから……。」


止めて欲しいと願うアシュの気持ちは、あっさりと却下され、手と手はより一層、強く繋ぎ合わされる。
ピッタリと手の平にくっ付いたアイオロスの手の平は、温かいを越えて熱いくらいだ。
しっとりとした感触は、肌の他の部分とは比べ物にならない程、触れ合っているのだという艶かしい実感を、彼女に与えてくる。
身体中の何処よりも敏感になった手の平がドキドキと大きく脈打ち、自分の心の奥の気持ちまで伝わってしまうのではないかと、そんな危惧を抱いてしまうくらいに、アシュは生々しいまでのアイオロスの感触を、手の平から感じていた。


「どうして? 昔は当たり前に繋いでたじゃないか。」
「それは……、子供だったからよ。」
「アシュは俺が手を繋いで上げないと、不機嫌になって、その場を動こうとしなかったんだよ。」
「だから……、子供だったのよ。」


アシュを困らせたいのか、昔の話を持ち出して、クスリと笑うアイオロス。
思惑通りに益々照れて、困った様子で落ち着かない彼女と繋いだ手を、ニコニコと微笑んだまま見下ろしている。


「何が違うんだろう?」
「え……?」
「子供の時と今とじゃ、何が違うんだい?」
「それは……。」


今も昔もアイオロスの事を想い、好きだという気持ちは何一つ変わらない。
ずっとずっと彼だけを想っていた。
ずっとずっと彼だけが好きだった。


だが、子供心に抱いた淡い恋の気持ちとは違い、今は人を好きになる切なさも、苦しいくらいに締め付けられる胸の痛みも知っている。
誰かを想い愛する事も、その誰かに愛され、そして、愛し合うという事が何に繋がるのか、それが何を意味するのか、大人となった今では全てを理解しているから。
だからこそ、恥ずかしいと感じ、そして、自分を卑下してしまう。


子供の頃のように無邪気に手を繋ぎたいと強請(ネダ)ったり、抱き付いたりは出来ない。
今ではもう、自分自身がどういう人間なのかを良く分かっているアシュ。
彼女は素直にアイオロスに想いを伝えられる程の価値は、自分にはないのだと思い込んでいた。





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