「大丈夫だ、アイオロス、自信を持て。お前はモテる。悔しい事に女官達には一番人気だ。お前に告白されて断るような女がいるとは思えん。」
「そう言ってくれるのは嬉しいがな、サガ。一筋縄でいくような問題ではないんだ。」


アイオロスは小さく首を振った後、どこか悲しそうにも見える笑みを浮かべた顔を、サガへと向けた。
その甘い顔に浮かべる笑顔の様々なバリエーション、特に今のような哀愁の籠もった笑顔に女達がクラクラとなる事など、当の本人は気付いていないらしい。
まぁ、それを教えてやる気もサラサラないがと、たった一人の女の事しか眼中にないアイオロスの様子を見ながら、サガは心の奥で思った。


一方のアイオロスは、簡単に好きだと言ってしまえれば、どんなに楽だろうかと、グルグルと巡る思考の中で思っていた。
幼い頃、アシュと共に暮らし、過ごしていた事を、サガは知らない。
だからこそ、簡単に「告白してしまえ。」などと言えるのだ。


遠い昔、と言っても、ずっと死の世界にいたアイオロスにしてみれば、それほど遠くない昔。
幼いアシュと一緒に過ごした日々の記憶が、頭の中で甦る。
色んな話をして、ずっと一緒にいると、アシュを守ると約束した。
なのに、自分はその約束も守れず、彼女に辛い日々を強いた。
自分の意思でそうなったのではないとしても、どうする事も出来なかったとしても、アシュを苦しい立場に追い込んだ事に変わりはない。
例え、シュラが自分の代わりに、この十三年間、彼女を守っていてくれていたとしてもだ。


そこでふと、アイオロスの思考が途絶えた。


――約束……?


そう言えば、アシュと約束をしたな。
将来の約束、彼女に「俺のお嫁さんになってくれ。」と言った、あの日の約束。
アシュは……、今でも覚えているのだろうか?
子供の頃に交わした、俺との約束を。


「確かに、彼女を口説くのは難しいだろうな。なにせ、あの強面で有名な男が、物騒なものを構えて彼女の背後で睨みを利かせているのだから。」
「どういう意味だ、サガ?」
「ん? 一筋縄ではいかないと言っていたのは、そういう意味じゃなかったのか? あの子は美人だからな。今までも近付く男は数多くいたが、何せあの般若顔での鉄壁のガードだ。どいつもこいつも恐怖で顔を引き攣らせて逃げるのがオチだ。」


アイオロスとアシュの過去の関係を知らないサガは、どうやら勘違いをしているらしい。
サガが言っているのは、多分……。


「物騒なものとは、コレの事か? それより、人の事を般若顔とは、随分な言い様だな。」
「シュラっ?!」


入口の扉の方から聞こえてきた、心なしかトーンの下がった声。
サガとアイオロス、二人同時にそちらへと顔を向ければ、そこにはシュラがいつもの無表情を貼り付けた顔、サガ曰く『般若の強面』で立っていた。
しかも、その右手を、いつでも振り下ろせるよう手刀の形に構えて。


「どうした、シュラ? 今日は確か……。」


十二宮の外側、他の聖闘士達の居住区近くで、聖戦時に壊れた建物の修復作業の指揮を採っていた筈。
それが、どうして教皇宮まで、わざわざ上って来たのだと、二人の驚いた顔がそう言っている。





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