11.交錯した愛の果てに
「あ……、ん、んんっ。」
「ん、アシュリル……。」
早朝の光が差し込む部屋の中は、まだ肌寒さの残る薄闇に包まれていた。
まだ眠りから目覚めるには早過ぎる時間だったが、部屋の中の二人は、既に目を覚ましていた。
いや、何度も浅い微睡みの中を行きつ戻りつしながら、目覚める度に激しく求め合う事を繰り返し、この時間を迎えたという方が正しい。
昨夜は、ただひたすら互いの内に燻る情熱をぶつけ合う事だけに没頭した夜だった。
刻一刻と明るさを増す明け方の光が、仄かに部屋へと降り注ぐ中、ベッドの上で激しくキスを交わす二人。
圧し掛かったアイオリアの身体の熱さを、触れる肌の全てで感じ取りながら、内側にはそれ以上に熱を持った彼自身が留まっている。
内外から伝わるアイオリアの力強さに、アシュリルはうっとりと全身を預け、終わりの見えないキスに酔った。
もう既に切なさも、胸の痛みも感じられない。
自分がココに閉じ込められ、辛い現実を強いられている事すら忘れ掛けている。
アイオリアから仕掛けられる情熱と口付けは、現実とは思えない喜びをアシュリルに与え、彼女は半覚醒の微睡みの中で、ずっとこの夢の中から目覚めなくても良いとさえ思い始めていた。
何処までも、深い深い陶酔の中に落ちていく感覚。
「あ、ああ……。い、いい。ん、リア、様ぁ……。」
「くっ、アシュリル。」
「あ、ああっ!」
熱い迸りと共にアシュリルの内側で達すると、アイオリアは力が抜けた重い身体を、組み敷いていた華奢な彼女へと預けた。
その身体を両腕でしっかりと抱き留め、アシュリルの唇からは甘い溜息が零れる。
と、その時――。
突然、アイオリアが跳ね起き、繋がったままだった身体をアシュリルから離した。
ベッドの上に片膝を付き、そのまま身を固くして黙り込んでいる。
その表情は険しく、何かの様子を窺い、耳を澄ませているようだ。
「……アイオリア、様?」
少し遅れて身体を起こしたアシュリルに目配せと、指を唇に当てて「静かにしててくれ。」と合図を送る。
刹那、不安気に瞳を曇らせたアシュリルを見て、アイオリアは安心させるようにフッと微笑み、小さな顔を両手で包んで柔らかな唇に口付けた。
キスは先程までの行為の名残を色濃く残し、こっくりと甘く優しい。
だが、腕を解いた時には、アイオリアの表情は元の険しいものへと戻っていた。
慌ててベッドから降り、アイオリアは急いで服を身に着ける。
脱ぎ捨てられたまま床に広がっていたバスローブを拾い上げ、ベッド横まで戻ると、彼はアシュリルの肩に、そっとそれを纏わせた。
「アシュリル。出来るだけ物音を立てないようにして、ココで待っていてくれ。」
「アイオリア様……。」
素早く背を向け、部屋を出て行ったアイオリアの後ろ姿に胸が締め付けられる。
彼が出て行った理由は、簡単に推測出来た。
それはアシュリルにとって望んでいた事。
閉じ込められたこの部屋から、やっと出られる時がきたのだ。
だが、何故かそれに対して嬉しさも喜びも湧かなかった。
扉の向こう、遠ざかるアイオリアの足音を聞きながら、苦しみが増していくばかり。
そう、アシュリルの本心は、アイオリアの傍にある事を望んでいた。
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