愛する人とのキス。
何度も夢に見た、幸せの瞬間。
それは、初めて交わす大好きな人との甘いひと時の筈だった。


だが、それは夢に見たような甘く優しいものではなく、奪い取るような強引なキスだった。
アシュリルの細い身体を骨が軋む程にキツく抱き締め、逃れられないように押さえ込んで。
苦しくなった呼吸に、酸素を求めて何度も顔を逸らそうとするが、アイオリアはそれすら許そうとはせず、ひたすらアシュリルの口内を思うままに貪った。


そう、決意を固めたアイオリアは容赦なかった。
その心が手に入らないのならば、無理矢理にでも良い、この小さな唇も、華奢で小さな身体も、その全てを自分のものとして奪い取ってしまおう。
そこに優しさなど微塵もない、あるのは抑え切れない情熱と、燃え滾る想いに任せた荒々しさばかりだ。


「んっ……、んんっ!」
「アシュリル、アシュリル……。」


何度も角度を変え、口内の隅々までアイオリアの熱い舌先が進入してくる。
苦しさと、そして混乱の中、アシュリルは何も考えられなくなっていた。
何もかもがアイオリアの荒々しさに捻じ伏せられ、抵抗どころか、身体に力を入れることすらままならない。


そして、彼女は気付いていなかった。
いつの間にか、巧みなアイオリアの手によって、抱きかかえられていた事にも。
そのまま彼がバルコニーを離れ、廊下を歩き出していた事にも。
ずっと強く目を閉じていたのだ、身体を強張らせて、何かを必死で堪えるように。


――バタンッ!


乱暴に開けられたドアの音に、アシュリルは初めて場所を移動している事に、アイオリアの腕に抱き上げられている事に気付いた。
ハッとして目を開く。
だが、移動しながらも依然として続く深い口付けに、彼女の視界にはアイオリアの顔が映るだけだった。
それまで、完全に停止していた思考が、僅かながらにゆっくりと動き出す。
その時、追い討ちを掛けるように、別の音がアシュリルの耳へと届いた。


――ガチャリ。


それは静かに、それでいて重々しく響いた鍵を閉める音。
ぞわり、全身が本能で反応する。
これから起こるだろう『何か』を察知して、怯む身体が益々、強張る。


アシュリルは、薄っすらと瞳を開いた。
ぼやけた視界は、差し込む夕陽で茜色に染まった、狭い部屋の景色を捉える。
壁側に向けられた細いデスクと、小さな椅子が一脚。
そして、その反対側には、シングルというより、それよりも細くて小さな簡易ベッド。
それを見つけた瞬間、アシュリルの全身の血の気が引いた。


ココは恐らく、書庫の横にあった小さな扉の内側だ。
書庫に付属する休憩室か仮眠室だと思われる。
そこにアイオリアは自分を連れて入った。
そして、鍵を掛けた。
それが意味するものが何か、幾ら鈍いアシュリルとはいえ、分からない筈がない。
だが、抵抗する隙など一部足りとてなかった。





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