口の中に含んだパンをゆっくりと何度も噛んでは、じっくりと味わうアイオリアの表情を、アシュリルはジッと見つめていた。
次いで、彼女の真横で、同じようにパンを味わっているシュラの表情を、そっと伺う。
その感想は本心で言っている言葉なのか、二人の表情から読み取ろうとするかのように。


「うん。俺はもう、他のパンは食えんな。一生、アシュリルのパンにお世話にならんきゃいけないようだ。」
「もう、兄さんったら。私を持ち上げても、何も出ないわよ。」


どうやら、シュラの言葉は、お世辞と受け取ったらしいアシュリル。
それでも嬉しいには変わりないのか、照れ臭そうに頬を染め、シュラの腕を軽く押す仕草が何とも愛らしく、アイオリアは噛んでいたパンをゴクリと飲み下し、無意識に彼女を見つめてしまう。


「アシュリル。俺が世辞などという、そんな下らん事を言う人間に見えるのか?」
「……違うの?」
「勿論、本心だ。それにアイオリアもな。コイツは俺以上に嘘が吐けん。」


不意に自分の名前を呼ばれ、ビクリとするアイオリア。
ハッとして、テーブルの向かい側に座る二人に視線を向ければ、楽しそうに目を細めているシュラと、期待に満ちた目を向けるアシュリルが視界に映った。


「本当、アイオリア様?」
「あ、あぁ。勿論だ。これ以上に美味いパンは食った事がない。」
「嬉しい。ありがとうございます、アイオリア様。」


心から嬉しそうに瞳を輝かせ、満面の笑みを向けてくるアシュリルに、アイオリアはその目を何度もパチパチと瞬かせるしかなかった。
正直、太陽の如く眩しくて、真っ直ぐに見ていられない。


「私、二日に一度はパンを焼いているんですけど、今度からは特別に、アイオリア様にもお裾分けしますね。」
「えっ?! 良いのかっ?!」
「はい。是非、アイオリア様に食べて欲しいです。」


思い掛けないアシュリルからの申し出に、戸惑いを隠せないアイオリア。
こんなに美味いパンを食べれるのは嬉しいのだが、自分の分もとなると、アシュリルに負担が掛かるのではないかと心配になる。


「大丈夫です。二人分も三人分も大して変わりないですから。その代わり、他の人には絶対に内緒にしてて下さいね。そうしないと、他からも頼まれてしまいますし、流石にそれは困りますから。」
「あぁ、それは心配ない。」


アシュリルのパンを独り占め(正確にはシュラ達も食べているが)出来ると分かっていて、他の仲間に喋るようなヘマはしない。
ミロやデスマスクに知れたら、間違いなく彼等もアシュリルにパンを作ってくれと頼んでくるだろう。
三人分なら何とかなるが、五人分では話が違う。
彼女もそれを分かっていて、こうして口止めしているのだと、アイオリアは察した。


「明後日には新しいパンを焼きますから、そしたら獅子宮まで持っていきますね。」
「あぁ、すまん。ありがとう、アシュリル。楽しみにしている。」


顔が真っ赤に染まっている事、アイオリアは多分、自分では気付いていない。
そんなアイオリアに対し、はにかんだ笑みを向けるアシュリルもまた、その頬がピンク色になっているとは気付いていないのだろう。
そんな二人の様子を傍から見ていたシュラは、あまりに初々しい反応を見せる妹と後輩を楽しそうに眺め、フッと軽い笑みを零した。





- 3/4 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -