夏のまぼろしその日。
あまりに綺麗な夕焼けが広がっていたものだから、アミリアを誘って海岸まで足を延ばした。
最初こそ渋っていた彼女だったが、視界の端に海が映り始めた頃にはソワソワと落ち着かなくなり、砂浜に到着した時には、既にはしゃいでいた。
それもこれも、あの夕陽が彼女に掛けた魔法だ。
空だけではなく、雲も、海も、鳥も。
俺達自身の姿も、圧倒的な『赤』で染め変えて。
「凄い、綺麗!」
「気に入って貰えたようで良かった。」
夏の終わりの夕陽は、どこか痛々しい。
切なさを多分に含んでは、哀しみの感情を勝手に増幅させる。
そんな景色の中では、夕陽に染まる彼女の後ろ姿さえも、儚げに揺れて見えた。
「思ったよりも温かいわ。」
いつの間にかサンダルを脱ぎ捨てて、アミリアは海の中へと足を運んでいた。
寄せる波が彼女の足下を浚っては、小さな足跡を消し去って、また大海原へと返っていく。
それは、まるで短い恋と同じようだ。
酷く儚く、そして、切なく。
近付いたように見えて、いつの間にか、遠く沖まで離れてしまった俺とアミリアの距離。
この心は、寄せては返す波のように、もう彼女には届かない。
「ねぇ、アイオリア。これでお別れ……、かな?」
「ああ、そうだな。」
「何だか、最後の思い出作りみたい。」
「それも悪くないだろう。」
「そうね……。」
恋の終わりは、いつも呆気なくて、儚くて。
終わってしまうのが嘘のように、淡々と会話だけが紡がれていく。
「ずっと貴方が好きよ、アイオリア。離れてしまっても。別れてしまっても。」
俺もだ。
俺も、アミリアが好きだ。
だが、それは『愛』とは違う、ただの好意。
優しい思い出として、心の奥に仕舞っておくための。
足下を浚う波は温かく。
頬を撫でる風は心地良く。
沈む夕陽は激しく燃えて。
俺達の別れを、淋しい赤色に染めた。
思い出が優しいうちにサヨナラを
夏の終わりのこの海で
‐end‐
夏のお題、最初の更新は『アイオリアと海』でした。
予想に反して一発目から悲恋でスミマセン;
劇的な別れではなく、こういう何気ないありきたりな雰囲気の別離シーンが好きだったりします。
2011.08.30
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