こうして、デスマスク様にチョコレート作りを習い出してから九日。
明日は、いよいよバレンタイン当日だ。
初日のあまりに酷い出来だったチョコに比べると、今のチョコレートはお店に出せるくらいだと自分でも思える。
この短い期間で、良くここまで上達出来たわ。
それもこれも、デスマスク様による鬼指導があったからこそなのだけれど。


「どう、です、か?」
「あぁ、そうだな……。」


本番を明日に控え、お菓子教室の最後に作った、私の渾身のガナッシュ(生チョコレート)とアマンドショコラ。
これが駄目って言われたら、私にはもう何も作れはしないだろう。


「合格点だ。そこらの菓子店のチョコよりか、数段美味い。」
「ほ、本当ですか、デスマスク様っ?!」
「おう、良く頑張ったな、アミリア。」


いつものニヤリとは違う、ニコリとふわりと浮んだ笑顔。
そして、同時にポスッと頭を撫でられる。
正直、とても嬉しかった。
あんなに怒られていたのが嘘みたいだ。
いや、あの厳しい指導があったからこそ、こんなにも嬉しいんだと思う。
頭を撫でてくれるデスマスク様の手が熱い。
どうしてか、胸がドキドキする……。


「頑張ったアミリアには、ご褒美をやる。俺様が作ったチョコレートムースだ。」
「い、いつの間に?!」
「真剣になり過ぎて、俺が横で作業してンのにも気付かなかったンだな。」


透明なガラスの皿に乗せられたムースに、音もなくスッと入るナイフ。
ココアのふんだんに掛かった上面とは対照的に、ツルリと滑らかな切り口。
上面の濃いココアの色と、切り口の柔らかなチョコの色。
無意識に唾を飲み込む、視覚だけでも美味しいと分かる。
凄い、見た目だけで、こんなに美味しいお菓子があるなんて……。


「駄目です、デスマスク様……。」
「あ? 駄目って、何が?」
「こんなチョコレートムースを目の当たりにしたんじゃ、私のチョコなんて屑ですよ、クズ。とてもシュラ様には渡せません。」


一生懸命作った、最高の自信作だった。
でも、やっぱり本物を見てしまうと、どうしても付け焼刃の感が否めない。
それに、今では私……。


「なら、俺が貰ってやる。」
「……え?」


すっかり落胆しうな垂れていた私の手から、チョコの乗ったお皿が奪われる感覚。
ハッとして顔を上げると、いつものニヤリ笑顔を浮かべたデスマスク様が、楽しそうにチョコを摘んで口に放り込んでいた。


「俺のと比べるなンてバカだな、アミリア。これはこれで十分、美味いって。」
「は、はぁ……。」
「で、アミリアは良いのか? 明日からはもう、ココに来る理由がなくなっちまうンだぜ。」


途端にドキリと高鳴る胸。
そうだ、今日が終われば、デスマスク様と一緒の時間を過ごせなくなる。
早く終わって欲しいと思っていたお菓子作り教室だったのに、今では彼の傍を離れ難くなっている自分がいる。
厳しい指導の反面、最後のあの優しい笑顔に、この心を持っていかれた気がした。


そんな私の心を見透かして、身を屈めたデスマスク様が、やや強引に私の唇を奪う。
それも悪くない。
こういう俺様なトコロにも、いつの間にか惹かれていた。
チョコレートの甘さの残る口内を存分に味わって、離れた後のぼやけた視界に、彼のニヤリと色っぽい笑顔が霞む。
そう、シュラ様の目を惹こうなんて非現実的な夢を、このニヤリ笑顔が覚まさせてくれた。



夢よりも甘い現実を



「そうだ、伝え忘れてたわ。シュラ、チョコレート嫌いなンだよ、実は。」
「嘘っ?! 何で、今頃っ?!」


それを知ったところで、もう関係ないのだけれども。



‐end‐



→(NEXT.シュラ)


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