雨降りの休息



雨の日は苦手だ。
寝不足の頭はズキズキと痛くなるし、暗い空に気分が滅入る。
呼吸をする度に肺が重いし、何だか息苦しい。
法衣の裾は濡れて汚れ、髪は抑えが効かずにモワモワと広がってきて爆発したようになる。
雨がもたらすあらゆる事象が、私の気分を害するばかりだ。


今もほら。
耳の奥に纏わり着く、この音。
ザザーと風のように流れていく低い低い空気の音が、微弱に鼓膜を震わせるのが酷く煩わしくて、もう何十分も悩まされている。


「サガ……。」
「何だ、アイオロス?」
「眉間に皺が寄り過ぎだぞ。」
「仕方ない、この雨だ。」


だが、自分の周りの嫌な事の全てを「雨のせいだ。」と、その一言で片付けられるのは悪くない。
そして――。


「サガッ! ねぇ、サガー! 外、出よ! 外!」
「この雨の中をか? 濡れてしまうぞ?」


アイリスが、こうして私に纏わり付いてくるのも、決まって雨の日。
それはそれは嬉しそうに楽しそうに。
こうして彼女に甘えられるのも悪くはないと、疲れた心の片隅で思う。


「降ってるから外に出るの。ほら、行こ!」
「今は執務中だ。見れば分かるだろう?」
「ぶー、サガのカチカチ頭ー! ちょっとだけなのに!」


勝手に怒って、勝手に膨れて。
アイリスは頬を膨らませたまま、ドカドカと部屋を飛び出していった。
そして、彼女のいなくなった部屋で、苦い笑みを零す私。


「行けば良いじゃないか? もう何時間も休憩を取っていないぞ、お前。」
「しかし……。」
「ホンの少しの時間だろう? それに、ほら。」


そう言って、アイオロスが指を差した窓の向こう。
黄色とオレンジ色の鮮やかなストライプが眩しい傘の中で。
一人はしゃいだアイリスが、お気に入りの可愛い長靴で水溜りを楽しげに蹴り上げている姿が見えた。


「サガッ! サガー!」


窓のこちら側、小さな箱の中にいるようにすら思える私に向かって、アイリスは元気いっぱいに手を振る。
私と彼女を遮断するように降り続く雨のベールと、冷たく雨を阻むガラスの窓。
閉鎖された空間に閉じ篭っている私に、アイリスの笑顔はなんと眩しい事か。
暗い空の下、雨に霞む世界に下りてきた、小さな太陽のようだ。


「あの子が、あんな笑顔ではしゃぐ姿は珍しいぞ?」
「あぁ……。」
「サガ、少しは息抜きもしないと駄目だ。さぁ、行ってこいよ。」
「悪いな、アイオロス。」


気にするなと頷いたアイオロスを残して、廊下へと飛び出した私。
途中、法衣を着たままだった事に気付いたが、戻りはしなかった。
ただ少しでも早く、アイリスと同じ世界に、窓の外の優しい雨に包まれた世界に、飛び込みたかったから。



雨の中、愛しい彼女とひと時の休息を



「サガ! 見て!」
「ん? どうした?」


弱まってきた雨の中、アイリスが嬉しそうに指を差す。
遥か遠くの空が晴れ、視界の下に広がる十二宮に向かって美しい虹のアーチが掛かって見えた。


「綺麗ね……。サガと一緒に見れて良かった。」
「あぁ、私もそう思うよ。アイリスと一緒に見れて良かった。」



‐end‐





一年近く前に走り書きしたSSっぽいサガを発見しまして、それを大幅修正し色々と付け加えてみたら、こんな感じに仕上がりました。
とっても意味不明でゴメンなさい;
何が書きたかったのか自分でも良く分かっていません。
多分、きっと雨降りの日のサガやカノンの髪の毛は凄いんだろうなと、そう思ったからです(苦笑)

2009.07.10



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