たかいたかい



この身長がホンの少し、そうたった五センチ違っただけでも、見える世界が違って見えると聞いた。
そして、ふと思い出す。
まだ子供だった頃、学校で休み時間に何気なく教壇に立った時、いつもの教室が違う雰囲気に感じた事があったっけ。
クラスの皆と同じ目線の中にいるのと、一段高い場所から見るのとでは、何が違うのか言葉に表すのは難しいけれど、それは確かに違っていて。
優越感とでも言うのかしら?
ちょっと高いだけで、あんなにも違って見える。


なら、アルデバランの目線だったら、どれだけ違って見えるのだろう?
彼の視界に、この聖域の景色が、どんな風に映っているのか。
それが知りたくて、彼と同じ景色を共有してみたくて。
興味を覚えた私は、すぐさま実行せずにはいられなかった。


――ガタガタ、ゴトゴト……。


「危ないぞ、アミリ。何をしているのだ?」
「あ、アルデバラン……。」


聖域内の商店街で、いつもお世話になっている食料品店のオジサンに頼んで貰ってきた、丈夫そうな木の箱。
それを幾つか積んで、その上に乗れば、きっと丁度良いくらいに違いないと、そう思った私。
アルデバランが戻ってくる前に試してみようと思っていたのに、あっさりと見つかってしまった。


「この上に乗るつもりだったのか? 一体、何のために?」
「アルデバランとね、同じ景色を見てみたかったの。」


彼は積んだ木箱の上に乗り掛かっていた私の身体を支えて、極自然に、そこから降ろしてくれた。
柔らかな物腰だけど、それは有無を言わせぬ仕草だった。


言葉では何も言わない。
でも、「そのような危ない事はするな。」と、そう彼が心の中で言っているのが伝わってくる。
その強く真っ直ぐな瞳が私の軽率な行動をたしなめているのが分かって、叱られた子供みたくシュンとしてしまった。
さっきまでは未知の世界への好奇心で、この心は大きく膨らんでいたというのに。


「全く……。こんな危なっかしい事をしないで、初めから俺に言ってくれれば良いものを。」
「え……?」


一体、何を?
そう聞き返す間もなく、私の身体は宙に浮かんだ。
それがアルデバランによって担ぎ上げられたからだと知るまでに、私の鈍い頭は数十秒の時間を要した。


目の前に見える景色。
いつもと同じなのに、何処か違う景色。


「えぇっ?! ええぇぇぇっ?!」
「何をそんなに驚いてる、アミリ?」
「だ、だだ、だって!!」


これじゃあ、アルデバランより更に高い目線になっちゃうよ?
そう、私は彼の右肩に座らされていたのだから。


「良いじゃないか。俺より高い目線から景色を見られる奴など、そうはいないぞ。」


ガハハと豪快に笑って、空いた左手で私の膝をポンポンと叩く。
確かに、それはとっても貴重な体験なんだろうけど、ちょっと違う気がする。
だって、私が見たかったのはアルデバランの見てる景色であって、それ以上のものを望んでいた訳ではないから。


でも……。


でも、とても新鮮で不思議な気持ち。
同じ景色、だけど、違う景色。
背の小さな私の視界から見ていた時には、手前の森に隠れて見えなかった遠くの居住区が、その姿を木々の向こうに覗かせていたり。
目の前にある庭の木が、随分と小さく感じられたり。
それは驚きのいっぱい詰まった宝箱のような気がした。


「よしっ! 教皇宮まで走るぞ、アミリ!」
「えっ、このまま?!」
「もっと上へ行けば、更にとっておきの景色を楽しめるからな。」


私が止める前に、アルデバランは走り出していた。
まるで無邪気にはしゃぐ子供のように、楽しげに階段を駆け上がる彼。
キャアキャアと声を上げて、必死に彼の頭へ掴まる私。
きっと私達の姿を見掛けた人達は、呆れて見ていたと思う。



手を伸ばせば空にも届きそう、そんな貴方の見ている世界



でも、途中から他人の目なんて気にならなくなった。
楽しくて、何だかとても嬉しくて。
アルデバランと同じ世界を共に見つめて、眼下に広がる聖域の景色は、こんなにも美しいのだと改めて分かったから。


彼の肩の上、小さく身を屈めてありがとうのキスを送る。
同じ高さからキスが出来るなんて。
また一つ新しい喜びを知り、私の心は幸せに満たされていた。



‐end‐





こちらは某Mさまのサイト一万打のお祝いに捧げます、牛師匠です。
期待を裏切って、リアじゃなくバランでスミマセン(苦笑)
牛様の肩車なら、きっと景色が綺麗だろうなぁとか妄想してしまったので、つい。
どうぞお好きにお持ち下さいv

2009.06.06



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