意地悪な貴方



やり辛い……。


チラと視線を上げる。
そこには、優雅な笑みを口元に浮かべた彼が、ゆったりと椅子に凭れて座っていた。
ただ何をするでもなく、腕を組んで、ジッと私の方を見ているだけ。
身動き一つしない、まるで絶世の美女の実物大蝋人形でも飾ってあるかのよう。
でも、まぁ、その女性と見紛う見掛けとは裏腹に、中身はこれでもかと言う程、男らしい方なのですが……。


「あの……、アフロディーテ、様。」
「ん? 何だい、アイリス?」
「何をなさっているのです?」
「何って、見ての通り寛いでいる真っ最中だけど。」


あぁ、そうでしょうね。
確かに、そうでしょう。
でも、寛ぐのなら、こんな狭い部屋の古い椅子の上じゃなく、広いリビングの大きなソファーの上にでも座っていれば良いのに。
アフロディーテ様お気に入りのソファーは、程好い弾力と硬さで、大層、座り心地が良い。
それに、リビングの方が風通しも良く、落ち着いてゆっくりと休める、と私は思う。
何も、わざわざこんなところに居る必要なんてないのに、時間の無駄だとしか思えない。


「あの、リビングの方に、お茶とケーキをお持ちしますから、そちらへ移りませんか?」
「あぁ、気にしないで、アイリス。お茶もケーキも、ココに運んでくれれば良いから。」


だーかーらー!
私が良くないんですってば!
目の前でアフロディーテ様に見られながらじゃ、気になって仕事がはかどらない。
落ち着いて書類に集中出来ないんです、分かって下さい、そのくらい!


「何? アイリスは私がココに居ると、邪魔なのかい?」
「いえ、そういう訳では……。」


ちゃんと分かってるんじゃないですか!
自分の存在が邪魔しているのだと分かってて、こういう事をするなんて、何の嫌がらせですか?!


ココは、双魚宮の中にある、宮付き女官用の小さな仕事部屋だった。
お掃除や洗濯など、主に家事仕事は午前中の内に終わらせ、午後からは大抵、この部屋の中で、書類の整理やら宮費の計算やら、座り仕事をするのが私のいつもの勤務スタイルだ。
午後のこの部屋は日当たりも良く、ポカポカと暖かい光に包まれて、それはそれは気持ちが良い。
疲れたら五分程ウトウトしたり、自分のペースで仕事が出来るのが何よりも好きだった。


なのに、今日はどういう訳か、午後からの訓練が中止になったとかでアフロディーテ様が戻ってきて。
それだけならまだしも、特に用事がある訳でもないのに、この部屋に入り込んできて、そのままドッカリと空いた椅子に座り込んで、挙句、根でも生えたかのように動かなくなってしまった。


そして、今に至るという訳で……。





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