素直じゃない



「お前等、いい加減にしろ! やる気はあるのか!」


海底神殿に響く俺の声は、溢れ出る苛立ちに高く太く響いた。
だが、俺の目の前でボケッとしている三人は、まるで無反応。
いや、無反応と言うか、端から俺に構ってなどいられないといった雰囲気。


やりたくなさ気なバイアン、理解力がないイオ、覚える気のないソレント。
死んだような目でぼんやりと座っているコイツ等を眺めているだけで、俺の怒りは倍に膨らむ。


あぁ、お前達がやりたくないのは分かっているさ、最初からな。
だが、俺だって好きで教えてるワケじゃない。
海界での執務の全てをコイツ等に引継ぎしてしまわない限りは、俺はいつまで経っても聖域に帰れんのだから。


「……一旦、休憩だ。」


次から次へと湧き上がる苛立ちを抑えて『休憩』の一言をボソリと呟けば、ヤレヤレといった調子でヤツ等は部屋を出て行く。
きっと俺は苦虫を噛み潰したような顔をしていた事だろう。
ヤレヤレと溜息を吐きたいのは俺の方だっていうのに、全く、バカ将軍共めが。


山積(サンセキ)した問題に重くなった頭と身体を引き摺るように席を立つと、俺も神殿の外へと向かった。
相変わらず、ココの空気は重い。
地上のどこよりも多分に含んだ水分のためだろう、感じる息苦しさは慣れぬうちはキツい。
だが、もうスッカリ馴染んだ身体に重たげな空気を目一杯吸い込むと、美しく揺れる頭上の海を見上げた。


ココの海空はいつ見ても綺麗だ。
アイツにも見せてやりたいが、ココへ連れてくる気は微塵もなかった。
海界での生活はそれ程、容易くはない。
聖域に比べれば不便も多い、環境も違い過ぎる、何より身体への負担は地味に大きい。
それにココにいれば、俺はサガと同様に執務に缶詰になりかねない。
アイツを慣れぬ土地に閉じ込める事で、寂しい思いなどさせたくはないのだ、だから――。


『……カノ〜ン。』


気のせいか、幻聴が聞こえる?
俺とした事が、愛しさのあまり幻聴まで聞こえるようになったとは、笑える話だ。
たかだか十日程度、離れているだけだというのに、どうかしている。


『カノ〜ン!』


今度は先程より、もっとハッキリとした声が俺の耳に届く。
ハッとして頭上の海を見上げていた視線を下げれば、こちらへと向かって歩いてくる人影が見えた。
遠く離れていても分かる、それは俺と全く同じ姿形をした人物。
いつもの法衣ではなく、珍しく私服姿のサガと、その横には――。


「アミリ? どうしてココに……。」


今の今まで、ココには連れて来たくないと思っていた俺の恋人が、サガと並んで歩いていた。
あぁ、俺とアミリが並んで歩いていると、こういう風に見えるのだな。
なかなか似合いのカップルではないか、二人共に釣り合いが取れていて理想的だ。


しかし、サガのあの私服のダサさは何とかならなんのか?
あれは俺だと想像しようにも、有り得ないダサさに想像が途中で打ち切られてしまう。
俺と同じ顔して、あんなダサい格好をしないで欲しいものだな、全く。





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