ふと横を見ると、不機嫌に唇を曲げたカノンが私を見下ろしていた。
問答無用に私の右手首を掴み、痛いと抗議をしても、離す気なんかまるでなくて。


「戻るぞ、アミリ。」
「心配性ね。カノンのくせに。」
「俺が心配性だと、何が悪い。」
「いつもいつも、他人がどうなろうと知ったこっちゃないって、言ってるでしょ。」
「お前は他人には入らん。」


どこまで不器用な人なんだろう。
私が好きなら好きと、大切だからと、ハッキリ言えば良いのに。
それすら出来ない程に、カノンは人の愛し方を知らない。


「兎に角、こんな人気のないところでフラフラしてたら、欲求不満の雑兵共に何をされるか分からん。あまりウロウロするな。」
「海龍様の女に手を出す勇気のある雑兵が、ココにいるとは思えないけど?」
「アミリが俺の女だと、気付くとは限らんだろうが。」


それは口実ね、カノン。
私が一人で出歩くのが気に食わないからって、何とかして引き留めて、傍に置いておきたいんでしょ?
そうして閉じ込めておかないと、私が離れてしまうのではないかと、心配なんだわ。
そういう愛し方しか出来ない、本当に不器用な人。


でも、そんなところが愛しくて、そして、強く惹かれてしまう。
貴方を愛して止まないのよ、カノン。


「ねぇ、何で私を選んだの? 私なんか選ばなくても、綺麗な女官は大勢いたわ。」
「何度、同じ事を言ったら分かるんだ、アミリ。ただ単に相性が良かった、それだけだ。」


また、嘘を吐く。
この人は一体、幾つの嘘を私に並べれば気が済むのだろう。
相性だなんて、貴方が私を選んだ時には、まだ知らなかったじゃない。
貴方と愛を確かめたのは、この身体を捧げて愛を交し合ったのは、それよりも、もっとずっと後の事だったというのに。


「お前は俺の傍にいれば良いんだ、一生な。」
「横暴ね、カノン。」
「ふん、それの何処が悪い?」


そんな横暴な貴方が私を求め続ける限り、この夢は覚めないのだろう。
そして、貴方が私を抱く度に、終わらない夢の中に深く深く沈んでいくのだ。
貴方の腕の中で、二重に見る夢に、甘い疼きを感じながら。



この海底の楽園で、夢は永遠に覚めない



私の腕を強く引きながら歩くカノンの、その大きな背中を見つめ、高鳴る胸を抱く私。
例え、この夢が覚めたとしても、儚き夢の続きを求め、私はまた遠き海の底へと飛び込んでいくだろう。
私も貴方を愛しているのだから……。



‐end‐





苦手な双子を攻略しようと、リハビリに一本。
カノンは、私的に『海龍よりの、ちょっと孤高なイメージ』の方が好きです。
どこか孤独で、周りに理解されなくても、自分と自分の大切な者だけが分かってくれてれば良い、そんな雰囲気で。
なので、ウチのカノンは聖域より海界にいることの方が多いです。

2009.04.26



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