優しい獣



鳥の鳴き声で目覚めた。
隣で眠るアリナーを起こさぬよう身を起こし、ベッドから抜け出す。
下着とTシャツを身に着けたところで、「んっ……。」という寝言を聞き、振り返ると、アリナーがベッドの中で寝がえりを打っていた。
少し……、いや、かなり無理をさせてしまったな。
疲労の色が濃く滲む寝顔を見下ろし、理性を失って彼女に覆い被さった昨夜の自分に溜息を吐く。


「……ん、んんっ。」
「起きたか、アリナー?」


俺の視線を感じ取ったのか、疲れ果てている筈のアリナーが目を覚ました。
ゆっくりとダルそうに身を起こし、少しだけやつれた顔で笑みを浮かべる。


「おはよ、アイオリア。」
「あぁ、おはよう。だが、アリナー。お前は、もう少し寝ていた方が良い。」
「駄目。アイオリアに朝ご飯を作らなきゃいけないんだから。」


そんなもの……。
食えれば何でも良いではないか。
テーブルの上に転がっているパンや、冷蔵庫の中の牛乳だけで十分。
腹が膨れて、昼まで持てば、それで良い。


「だから、駄目よ。私が女官長に怒られちゃう。アイオリア様にマトモな朝食も出せないのか、ってね。」
「あの女官長は……、怖いな。」


いつもガミガミと若い女官達に説教をしている女官長の姿を思い出し、遠慮する事がアリナーのためにならないと気付く。
俺ですら、あの女官長と接する際にはビクビクしてしまうのだ。
アリナーにとっては尚更だろう。


「そんなに気遣いが出来るなら、昨夜の内に発揮して欲しかったな。」
「……スマン。」
「それが出来ないのがアイオリアなんだろうけど。」
「……スマン。」


俺はベッドに腰掛けると、身を小さくした。
申し訳ない気持ちでいっぱいになり、肩身が狭くなる。
自制しようとは思う、思うのだ。
だが、薄暗い部屋の中で、白いシーツに身を沈めたアリナーの姿を見てしまうと、自分を抑えるなんて、到底、無理な話だった。
程々にと言われたところで、一度、心に灯った熱情の火は弱まらず、満足するまで終息などしない。


「気遣いして欲しかったとは言ったけど、理性的なアイオリアなんて、アイオリアじゃないわ。」
「それは……。褒められているのか、貶されているのか……。」
「う〜ん、どっちも?」


クスクスと笑うアリナーを見て、俺は眉を下げた。
感情を上手く制御出来ない事は、自分が一番分かっている。
カッと熱くなってしまうと、もう止められないのだ。
それが戦闘だろうと、恋愛だろうと、ベッドの上だろうと。
アリナーは多分、貶しの意味で言っている。
褒める要素など皆無なのだから。


「そんな事ない。情熱的なアイオリアは、とても魅力的。」
「無理して褒めなくても良い。」
「無理なんてしてないわ。これは正直な私の気持ち。」


ベッドの上を這って、俺の横へと移動してきたアリナーが、肩に凭れて呟く。
そんな俺だから好きなのだと。
裏表なくハッキリと言い切るアリナー、そんな彼女だから俺も好きになった。


「ならば、毎朝、身体は痛むだろうが、耐えてくれるか?」
「耐えますよ、アイオリアのためなら。でも、毎朝って……。」
「アリナーと同じベッドに寝て、理性を保つのは不可能だからな。必然的に毎晩、そういう事になる。」


俺の言葉を聞いて、一度、大きく目を見開き、それから弾けたように笑うアリナー。
そんな彼女の頭をポンポンと撫でた後、俺はフッと息を吐いた。
それは俺の恋心を代弁する甘い溜息だった。



恋する獣クン



(身体、鍛えようかしら。色々と耐えられるように。)
(それは……、頼むから止めてくれ。)
(え、どうして?)



‐end‐





ニャーくんの誕生日にと思って考えた小話ですが、色々と忙しくて形にするまでに時間が掛かってしまいました、ゴメンナサイ。
体力自慢の彼ですので、夜は毎日、頑張っちゃうんだと思います、いやん(苦笑)

2019.08.23



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