SHINY



見上げると一面に広がる真っ青な空に、白い紗のベールのような雲が淡く掛かっている。
毎日続いているこの暑さだ。
初秋など言葉ばかりだと思っていたが、目を瞬かせる太陽の光が明らかに低くなっていると気付き、いつの間にか季節が巡っていたのだと、しみじみと思った。
忙しさに流され、周囲を見渡す余裕もなくなっていたという事か。
アリナーが無理矢理に誘ってくれなければ、こうしてゆっくりと過ごす時間など取れていなかったかもしれない。
木陰から空を見上げ、彼女の配慮に感謝する。
それにしても早く来過ぎてしまったか……。


「アイオリアッ!」


呼ばれた声に目線を下げる。
遠く草原を挟んだ向こう側の道から、俺に向かってアリナーが手を振っていた。
小走りに丘の草原を抜けて、俺の元へと駆け寄ってくる彼女。
急いで走っている割には随分と時間が掛かる事だ。
そう思ってクスリと笑みを零している間に、漸く木陰へと辿り着いたアリナーは、息を切らして俺の横へと座り込んだ。


「聖衣、磨いているの?」
「あぁ。このところ手入れをする暇もなかったから、丁度良かった。」


攻撃を受け、返り血を浴び、俺の汗を大量に吸った聖衣。
定期的に手入れをしなければいけない大切な相棒でありながら、今回は随分と放置してしまった。
丹念に磨き上げた肩のパーツを目の上に翳し、磨き残しがないか確認する。
太陽の光がキラリと反射する様は、自分の聖衣でありながらも美しいと思った。


「ピカピカでキラキラね。とっても綺麗。」
「あぁ、そうだな。」
「アイオリアもキラキラで綺麗。」
「……は?」


突然、何を言い出すのだ、アリナーは。
俺が綺麗?
激しく面食らいながらマジマジと彼女の顔を眺めていると、無邪気な表情で俺の方へと手を伸ばす。


「髪、太陽の光に透けてキラキラ輝いているの。」
「かみ? そんなの、シャカやカミュの髪の方が綺麗だろうが。俺の髪が綺麗など有り得ん。」
「ううん。アイオリアの短い金茶の髪だから、光の粒が髪に留まって綺麗なの。」


意味が分からん。
どう考えてもサラリと長い髪の方が綺麗だろう。
今まさにアリナー自身の髪が風に揺られて、ふわふわと靡いている様が綺麗なように。


「それに顔も。顔も綺麗。」
「かお?! 俺の顔の何処が、き、綺麗だと?! それこそアフロディーテの方が、ずっと……。」
「日焼けした精悍な顔はギリシャ彫刻みたいで、本当に綺麗。立派な筋肉に覆われた体躯と良い、アイオリアの全身が神様からの贈り物ね。」
「…………。」


逞しくて強靭というのが、アリナーの言うところの『綺麗』なのだとしたら、多少は納得も出来る。
だが、この癖っ毛までも含まれているのなら、そうとは言い切れない。
何を思って、アリナーがそんな事を言い出したのか推し量るのも難しく、俺は絶句したまま言葉が出ない。


「どうしたの、アイオリア? 手が止まっているわ。」
「あ、あぁ……。」
「私も聖衣磨きのお手伝いする。あ、これ、腕パーツね。」


手に取った腕のパーツを楽しそうに目の上に掲げ、太陽の光が反射する様子を眺めているアリナー。
汚れを見つけては、せっせと拭い、そして、また空に掲げる事を繰り返す。
遂には鼻歌まで歌い出し、パーツ全体をピカピカに磨き上げて喜んでいるではないか。


「聖衣を磨くのが、そんなに楽しいのか?」
「うん。だって、これまで積み重ねてきたアイオリアの歴史っていうのかな。闘い抜いてきた証と功績が、この聖衣に刻まれているんだもの。」


ピカピカにして上げなきゃね、これがアイオリアの誇りなんだから。
そう言って、ニパッと笑ったアリナーが、直視出来ない程に眩しく見えて、俺は瞬きを繰り返しながら視線を落とした。


そうか……。
アリナーの言う『綺麗』は、そういったもの全てを包めた上での言葉だったのだ。
俺のこれまでの全てを見ていて、知っていて、それで『綺麗』だと言ってくれるのなら、それは何て嬉しい言葉だろうか。



心にキラキラ、彼女の言葉



(アイオリアもキラキラで、聖衣もキラキラで、身に着けたら太陽よりも眩しいかもね。)
(ははっ。それは言い過ぎだろう。)
(あ、でも、アイオロス様の方が眩しいよね。あの方、笑顔もキラキラだもの。)
(っ?!)



‐end‐





日差しにキラキラと透けるリアの髪は、きっと綺麗なんだろうなという妄想から生まれた、オチなしの小話でした(苦笑)
リアの前髪、触ってみたいです。

2017.09.10



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