「あの……、アイオリア、様?」
「ん、何だ?」


ワザととぼける俺に、アリナーは益々、身を小さく縮めた。
それもそうだ。
今、彼女の置かれている状況。
左右に書棚、背後には壁、そして、唯一、その隙間から脱げ出せる筈の空間は、俺が全身を使って塞いでしまっている。
ただでさえ人の気配のない書庫の奥、誰の助けも期待出来ない場所で、小動物のようにか弱いアリナーは、立派な雄ライオンに閉じ込められてしまったという訳だ。


「あの……。そこ、退けて貰えませんか? 私、出られないんですが……。」
「そうだな。」
「そうだな、じゃないです。これ、早くサガ様に渡さないと……。」


怒られちゃいますから、私が。
そう言って、悲しそうに俯いたアリナー。
その姿を見て、少し困らせ過ぎたかなと、心の中では反省しつつ、俺はポーカーフェイスを貫いた。
いや、貫けていたかは自信はない。
だが、シュラのように無表情で、カミュのようにクールとまではいかないが、それなりに何気ない風は装えているだろうと思う。


「俺にココを退けて欲しいのか? なら、そうだな……。今夜、一緒に市街へ出掛けてくれるというのであれば、聞いてやらない事もないが。」
「え? 市街?」
「ホテルディナーのペア招待券を貰ったんだ。だが、残念な事に、一緒に行く相手がいない。」
「それで、私と?」
「駄目か?」
「駄目じゃない、です、けど……。」


益々、困惑し、どう答えて良いのやら迷っている雰囲気のアリナー。
断る理由はないが、突然、転がり込んだ黄金聖闘士からのお誘いに、戸惑いを隠せないでいる、といったところか。


「なら決まりだな。仕事が終わるくらいに迎えに来る。」
「あ、はい。あの、でも、良いんですか、私で? 何だか、私だけ得しているような気が……。」
「そうか?」
「そうですよ。黄金聖闘士様と二人きりで、しかも、タダでホテルのディナーを頂けるなんて。降って湧いた幸運に、吃驚しちゃいました。」
「降って湧いた、か。」


その言い方に、思わずクククッと含み笑いを零せば、自分の失言に気付いてパッと頬を赤く染め、慌てた様子で俺の服を掴むのが、また可愛らしい。
言葉の綾を何とか取り繕おうとアワアワと口を開くが、返って墓穴を掘っているのに気が付いているんだろうか、彼女は?


「アリナーは見ていて飽きないな。まるで小リスかハムスターみたいだ。」
「えっ?! や、酷いです、アイオリア様っ!」


更に顔を真っ赤にして怒る姿も、また何とも……。
笑った顔も怒った顔も、言葉も、仕草も、その全てが俺をこんなにも惹き付けるなんて、罪な女だ。
そんな罪作りな女には、ギリギリまで教えてやらん。
今夜のディナーと同じホテルに、部屋を押さえてある事はな。


さて、八月十六日の夜。
たっぷりと楽しませてもらおうか。



楽しい誕生日の計画実行といこうか



あの書類ファイル。
俺がワザと奥へと押し込んでおいたのだと知ったら、アリナーはどんな反応をするだろうな。



‐end‐





何を思ったのか、ちょい策士なニャーくんを書いてみようとか、無謀な事をしてしまいました;
大体、リアがこんな策士である訳がないんだ。
もっと正面から爽やかに、かつ暑苦しく「お前が好きだ!」と叫ぶのが、本来のニャーくんの筈。
しかも、自分の誕生日に、好きな女官の子を、自分への誕生日プレゼントにして食ってしまおうとかいう算段だなんて……、そんなニャーくんは嫌だ。(書いたのオマエだろ;)
何はともあれ、お誕生日おめでとう、リア!
初恋の(胸筋を持つ)貴方が大好きですv

2011.08.16



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