sunflower



「……ヒマワリ?」


突然、背後から響いた声に振り向くと、いつの間にか帰って来ていたアイオリアが、テーブルの上の花瓶に活けられた小さなヒマワリの花を、目を丸くして見下ろしていた。
アイオリアって、こんなに足音を立てないで歩く人だったかしら?
部屋の片付けに夢中になってて、全然、気が付かなかった。


「どうしたんだ、コレ?」
「今日、花売りの女の子から買ったのよ。」
「買った? 何のために?」
「何のためにって聞かれても……。あえて言うなら、部屋の中に潤いが欲しかったから、かな?」


もう何年もココにいて思う事。
アイオリアの部屋は殺風景過ぎる。
まぁ、男の人なんだから仕方ないとしても、白と黒のインテリアと、後はトレーニング器具しかないっていうのは、どうかと思うのよ。
だったら、少しくらい華やかな飾りが合っても良いじゃない?


「最初はね、百合を買おうと思ってたの。見事なカサブランカがあったから。」
「なら、何故、それを買わなかった?」
「だって、アイオリアのお部屋には、激しく似合わなさそうだったから。」
「言いたい放題だな。まぁ、確かに間違ってはいないが。」


鮮やかなヒマワリの黄色は、部屋をパッと明るくしてくれる。
自然、心も明るく華やかになる。
そうなって欲しいとの願いを籠めて、この小さな花を選んだ。


聖戦以前、アイオリアは笑顔をほとんど見せない人だった。
いつも厳しい顔、怖い表情をして。
そのせいか、この部屋の中も何処か陰気だった。
子供の頃、私が大好きだったアイオリアは、もっと無邪気で明るい男の子だった筈。
とは言え、陰気になってしまう理由は山のようにあったのだから、彼を責められはしない。


でもね、私はやっぱりアイオリアの笑顔が好きなの。
全力で笑う彼の姿は、もう記憶から薄れてしまうくらいに遠い昔の事。
そう、平和になった今でもまだ、どこか表情にぎこちなさを残すアイオリアに、もっと自然に笑って欲しい。
そんな私の思いを、元気いっぱいに咲き誇る、このヒマワリの花に託した。


「なぁ、アリナー。これ……。」
「んー? 何?」
「この花瓶、水漏れしてないか?」
「え? ええっ?!」


水漏れなんて、折角の綺麗なヒマワリが枯れてしまう!
しかも、あのテーブルクロス、ヒマワリを飾るのに合わせて、薄い山吹色の新しいものに変えたばかり。
そんな事を思いながら、慌てて駆け寄った私がバカだった。


「ひゃっ?!」


足がもつれて、何もないところでアホみたいに前のめりに転んで。
ベチャッと漫画みたいな音を立ててダイブした挙句、獅子宮の床と濃厚キッス。
いくら幼馴染の恋人同士とは言え、これは恥ずかしい、恥ずかし過ぎる。


「ちょっ……、アイオリアッ! 何で助けてくれないのよ?!」
「いや、つい唖然としてだな……。クククッ。」
「笑ってる場合じゃないでしょー! 手を貸しなさいよ!」
「ククッ……。ハハハ、アハハハハッ!」


私は起き上がった床にペタリと座り、笑い転げてるアイオリアを頬を膨らませて見上げる。
でも、顔はそんな怒った表情を作ってみせていたけど、心の中では嬉しさでいっぱいだった。
目の前で今、アイオリアがお腹を抱えて笑っている。
こんなに笑う彼を見たのは久し振りで、本当は一緒に笑い転げたいところ。
こんなちょっとした事で笑ってくれるなんて、ヒマワリの効果ってこんなに凄かったのね、驚きだわ。



こんな風に笑ってくれるのが、とてもとても嬉しい



平和になって数ヶ月、やっと何気ない事でも笑ってくれるようになった彼を見て思う。
アイオリアの笑顔は、アイオロスさんと同じくらい柔らかで穏やかで。
これが彼本来の表情なんだ、と。
そう、まだ幼い頃に私が惹かれた大好きな笑顔、アイオリアの無邪気な笑顔。



‐end‐





獅子月間なのでニャー君を、と思い、ほのぼの目指して書いてみました。
リアはいつも厳しい表情をしているイメージがあります。
やっぱりロスの弟として後ろ指さされてた時代は、笑う事なんて皆無に近かったと思うので、笑い方を忘れているのではないか? とかいう勝手なる捏造が再び入りました(苦笑)
あの事件さえなければ、本来のリアはヒマワリみたいにパッと華やかに笑える明るい子だったと思います。

2009.08.11



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