ねぇ、好きだと言って。
不安なの、時々。
うぅん、ずっと凄く不安なの。



甘い唇 苦いキス



手に抱えた小さな箱を揺らさないように、私は十二宮の階段を小走りに上っていた。
途中、昼間でも薄暗く、どことなく物寂しい宮を通り抜ける。
宮内を反響して響く足音は、背後から追い駆けてくるようにも聞こえ、自分の足音にビクビクと怯えては、何度も背後を振り返りながら。


そうして幾つかの宮を抜け、見上げる先にやっと見えてくるのは、大好きな人のいる第五の宮。
あそこまで上りきれば、アイオリアに会える。
そう思って、挫けそうになる長い階段の最後の数段を、一歩一歩、噛み締めて上った。


獅子宮も他の宮と同じく、薄暗くて静まり返っている。
それでも、この奥にアイオリアがいると思うだけで、暖かな空気が流れているように感じるのは、私の気のせいだろうか。
一つ前に通り抜けてきた巨蟹宮が、他にも増して冷え冷えと不気味な雰囲気だったから、余計にそう感じてしまうのかも。
もう追い駆けてくるようには感じられない自分の足音をパタパタと響かせ、私は彼がいるであろうプライベートルームへと駆け込んでいった。


アイオリアは今日、お休みだ。
ずっと任務で忙しく、久々に貰えたお休みだもの。
今頃は、ゆっくりと寛いでいるのだろう。
それとも、部屋のお掃除とか片付けでもしているか。
あのアイオリアの事だ、もしかしたら休みもしないで筋力トレーニングでもしてるかもしれない。


「嘘……。寝てる、し……。」


部屋でひたすら腹筋をしてる姿を勝手に想像して半笑いしながら、勢い良く開けたリビングのドア。
真っ先に目に飛び込んだのは、予想に反してスヤスヤと気持ち良さそうに眠るアイオリアの姿だった。


「やだ。どうして、こんな場所で?」


ただ眠っているだけなら、さして驚きはしない。
でも、アイオリアはベッドでもなくソファーでもなく、更にはカーペットの上でもない、いかにも固そうなフローリングの上で、両手を真っ直ぐ上に伸ばし仰向けで寝そべっていた。
しかも、部屋着のハーフパンツ一枚だけの姿で、上半身は裸のまま、燦々と差し込む日差しを目一杯、その全身に浴びている。
テラスへと続く大きな窓の前、こんな場所で寝転んで、アイオリアったら何がしたいのだろう?


「……ん? あぁ、アリナー、か。おはよう。」
「おはよう、じゃないわ。今は、もうお昼。」
「それくらい知っている。」
「なら、話は早いわね。はいはい、起きて下さーい。」


私は逞しいアイオリアの右腕に両腕を回すと、力任せに引っ張って起き上がらせようと試みる。
しかし、私の予想を遥かに超えて彼の身体は重かった。
ビクともしない身体を一生懸命引っ張る私を、寝そべったまま「ハハハ。」と爽やかな笑顔を浮かべてアイオリアは見ている。





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