突然、足元から舞い上がった一陣の風。
ふわりと浮かび、空高く飛ばされた、私の麦藁帽子。



金の羽根



「あ、ぼーしがっ!」


お気に入りの麦藁帽子が突然の風に掬われ、空高く飛ばされて。
私は慌てて、その後を追おうとした。
だが、空を見上げ腕を伸ばした私の小さな身体は、背後から伸びた腕に抱かれ、強い力で引き止められて。
それ以上、先へは進めなかった。


「危ない、アナベル!」
「だって、お兄ちゃん! アナベルのぼーしが!」


年の離れた兄は、この時、既に大人と言って良い年齢で。
小さな子供の私など、いとも簡単に押さえ込んでしまう。
私がどんなに暴れようとも、もがこうとも、ビクともしない力で抱き締められて。
風に飛ばされた帽子を、それ以上、追い駆ける事は出来なかった。


「アナベルのぼーし……。」
「泣くな、アナベル。また新しいのを買ってやるから。」
「でも、あれがすきだったのに……。」


海の方へ飛んでいった帽子は、フワフワと崖の向こう側へと漂い、吸い込まれるようにゆっくりと落ちていく。
もう手の届かない遠いところまで飛んでいってしまった事を知り、子供の私は悲しい気持ちを堪えられず、涙を浮かべたまま俯いた。


その時――。


ヒュッと風を切る音が聞こえて。
そして同時に、何かが私達を追い抜き、そのまま海に続く崖へ向けて流れていく。


あれは……、風?


いや、『鳥』だ!
黄金色をした鳥。
だってほら、通り過ぎた後に、金色の羽根がフワフワと舞っているのが見えるもの。


「お兄ちゃん、あれ!」
「あ、あぁ。あれは一体……?」


呆然と見守る私達の視界の中で、音も立てずに柔らかに大地を蹴って。
疾風のように、いや、『光』のように空へと舞った黄金色の鳥。
眩い光をその身に纏い、ふわりと軽やかに飛んで、高く高く。
そして、長くスッと伸ばした翼の先が、遠くへ飛ばされた筈の私の麦藁帽子を、いとも簡単に掴んだ。


「ほら、キミのだろう?」


再び大地に舞い降りた黄金色の鳥は、ゆっくりと、でも、そう見えて素早く、私達の元へと近付いてくる。
翼を畳んで、空を飛んでいなくとも輝きを失う事ない姿に、ただただ呆然とするばかりの私達。
この世には、こんなに美しい鳥がいるのかと、幼いながらに私は深い感慨に浸っていた。





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