春雨降る日の午後春の雨は冷たい。
傘の縁から零れ落ちる雫の冷たさに、暖かな季節には、まだ程遠いのだと知る。
今日は久し振りの雨だった。
寒い冬が終わり、暖かな春が来てから、ずっと良い天気が続いていたというのに。
どうして今日に限って雨なのか。
待ち合わせの場所に立つ私へと打ち付ける、力強過ぎるくらいの雨足。
「……ついてないなぁ。どうして、こう運が悪いんだろう?」
「そりゃあ、オマエ。普段の行いが悪ぃからに決まってンだろ。俺と違ってな。」
「うわっ! 吃驚した!」
ポツリと呟いた独り言に、真後ろから返事が返ってきて、私は飛び上がらんばかりに驚いた。
そんな私を見て、彼はゲラゲラと笑っている。
「オマエな、油断し過ぎだぜ? 襲って欲しいのかよ。」
「デスマスクが気配絶ってくるからでしょ! 意地悪っ!」
「気配なんて絶ってねぇよ。オマエが鈍いだけだ、アリア?」
いつもと同じ彼独特のニヤリ笑顔は、雨の日だろうと変わらず健在。
そのアクの強い笑みが好きだったりもするのだけど、今の状況では、ちょっとムカつく。
「もう、帰る!」
「は? 何言ってンだ、オマエ。今、来たばっかじゃねぇか。」
「だって、折角のデートだっていうのに、雨はヒドいし、デスマスクは意地悪だし……。」
差していた傘で顔を隠し、私はそっと俯いた。
見下ろす足元には、土砂降りの雨に濡れた黒い靴。
お気に入りの靴だったのに……。
彼とのデートだからと、張り切って履いてきたけど。
酷く濡れて泥塗れになり、台無しになっていた。
情けない気分だ。
とても惨め。
こんなんじゃ、休日デートもきっと楽しめない。
「全く……、世話の焼けるヤツだぜ。」
雨音に紛れて聞こえてきたデスマスクの声。
それに続いて、グイッと肩を引き寄せられる感覚。
「え?!」
驚いた私が慌てて顔を上げたと同時に、手から傘が奪われる。
そこには自分の傘を畳んで私の傘の中へと入ってきていたデスマスクの、どこか照れ臭そうに肩を抱き寄せる姿があった。
「雨がヒドかろうが何しようが、ンな事忘れるくれぇのデートにしてやる。だからよ、アリア。機嫌直せや。」
「……デスマスク。」
ホントは意地悪な人なんかじゃないって知ってる。
優しい人なんだよね。
だから、デスマスクに恋をした。
彼が大好きになった。
「デスマスク、肩が濡れてるよ。」
彼の広い肩は相合い傘からはみ出して、春の冷たい雨に打たれている。
それでも私が雨に当たらないようにと、しっかりと抱き寄せて。
「別にイイさ、こんくらい。」
「でも、冷たいでしょ?」
「あ〜……、そうだな。後でオマエが温めてくれンだったら、冷たくても構わねぇさ。」
「ん、分かった……。」
春の雨に打たれて、彼の優しさと愛をいっぱいに感じられたから。
土砂降りの雨も悪くないと思った。
冷たさも温かさに変わるなら……
貴方が望むだけ、何度でも温めてあげる。
明日が来るまで、何度だって。
‐end‐
蟹さまとデートの約束してたのに、雨でテンションダウンしたヒロイン。
そんな相手に、ぶっきらぼうでも優しい蟹さまを書きたかったんです。
妄想癖でスミマセン。
2008.04.18
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