「っと……。おもしれぇモンも見せてもらった事だし、行くとすっか。」


プリプリと怒る私の前でひとしきり笑った後、まるで子供相手みたいに私の頭をポンポンと叩いて。
言いながらデスマスク様は、人差し指で目尻に溜まった涙を拭う。
そんなに涙が出る程、笑わなくたって!
一瞬、その堅そうな銀髪を引っ掴んで、思いっきり引っ張ってやりたい衝動に駆られる。


「で、アリアは何処に行くトコだ? 目の保養とひと笑いのお礼に、俺が連れてってやってもイイぜ?」
「別に、デスマスク様に連れてってもらわなくたって、一人で行けます。」
「まぁまぁ、ンな怒んなって。大体、この風だぜ? 髪を押さえりゃスカートが捲くれる。スカートを押さえりゃ髪がバサバサ。ただでさえ風で身体がよろけるってのに、視界が悪くちゃ十二宮の階段は下りられねぇぞ。」
「や、それは、その……。」


言われて気付く、確かにその通りだ。
この強風では、どのみち止むまでは下りられそうにない。
長く長く続く急な階段を見下ろし、私は溜息を零す。


「じゃ、決まりな。」
「えっ?! と……、ちょっと! 連れてって下さいなんて一言も言ってませんよ、デスマスク様!」


溜息を吐いていたところ、いきなり背後から抱き上げられて、私は悲鳴に近い声を上げた。
そんな事にはお構いなく、彼はそのままズンズンと階段を下り始める。
この強風のお陰で、ほとんど人通りがなかったのが唯一の救い。
私は風に翻って捲くれてくるスカートを必死で押さえ、居心地悪く彼の腕の中に納まっていた。


「オイ、アリア。」
「はい、何ですか? デスマ――、んんっ?!」


呼ばれた声に顔を上げた瞬間、唇に触れた柔らかな感覚。
そして、目の前にはデスマスク様の整った顔。
彼の伏せた睫がこんなに長いだなんて、この距離でなければ気付かなかった事。


「ご馳走さん。なかなか美味かったぜ。」
「や、な……、何するんですかっ?!」


唇が離れた途端、ニヤッと笑うその表情。
悪戯した子供みたいなクセに、目を見張るほどに色っぽいだなんて反則。
反則過ぎです……。


私はマトモにデスマスク様の顔を見ていられそうになく、顔を背けるように俯いた。
視界の中には照れで赤く染まった自分の手が映っている。
こんなトコロまで赤くなってるって事は、顔はトマトみたいに真っ赤に違いない。


「悪ぃ、決めたわ。このまま巨蟹宮にお持ち帰り決定な。」
「はあぁ?! な、何を言ってるんですか、デスマスク様! 降ろして下さい!!」
「出来ねぇ相談だな。クククッ。」


ニンマリと笑う彼が憎らしくて。
でも、その熱っぽく見下ろす紅い瞳のセクシーさに、身体の奥が火照ってくる。
この顔が赤く染まっているのは決して怒りのせいでなく、照れと恥ずかしさのせいだと、彼が見抜いているのは間違いない。


私はデスマスク様の腕の中、恥ずかしさに俯き、身体を小さくした。
だが、この胸の高鳴りで気付く。
彼に、この心の全てを持っていかれてしまったと。



きっかけスイッチ



今日のこの突風が、私の心のスイッチを押してしまった。
こんなにも単純なきっかけがあるなんて、思いも寄らなかったけど。
どちらにしても、彼への『恋』のスイッチが入ってしまったの。


「たっぷり教えてやるから、可愛くしてろよ。」


一歩、階段を下りる毎に高まる期待。
本気になりますよ、私。
本気になっても、良いんですか?



‐end‐



お題配布サイト:
「確かに恋だった」





ロス兄さんに続き、蟹さままでセ●ハラ疑惑です(爆)
しかも、この文章読んだ限りじゃ、蟹さまってば、遊びで女官さんをお持ち帰りしてるようにしか見えな……、ゴフ!(←蟹パンチ炸裂)
悪い男だよ、蟹さま!
どうか、蟹さまが遊びじゃなくて本気でありますように!(ぇ;)

2009.05.09



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