日々、是学習也



「ただいま〜。」
「……おーう。」


厳しい事で有名な女官長にたっぷりと絞られて、クタクタの体で帰り着いた巨蟹宮。
デスは既に教皇宮での執務から帰っていたが、寛ぐ彼から発せられたのは何とも気のない挨拶。
見れば、ソファーに立て膝でドッカリ座り込み、手元の何かを真剣に読んでいる様子。
一体、何をそんなにハマり込んでいるのやら。
大事な書類か、次の任務の資料か。
気になった私は、ソファーの後ろからデスの手元の本を覗き込んだ。


「……何だ、漫画じゃないの。」
「ンだよ、アリア。俺が漫画読んじゃ駄目だってのか?」
「そうじゃないけど、余りにも予想外だったから。」


デスでも漫画なんてものを読むのかと、正直、驚いてしまった。
新聞はマメに目を通しているし、経済書なんかも頻繁に読んではいる。
こう見えて、読み物に関しては非常に真面目なデス。
でも、趣味というか娯楽的なものは、たまに小洒落た雑誌などを眺めている程度で、漫画など読んでいるのは初めて目撃した。


「私には理解出来ない難しい資料でも見ているのかと思って……。」
「ま、中身は下らん戦闘漫画だが、これはこれで勉強にはなるな。」
「勉強? 漫画で――、って、これ、何?! 何語なの、これ?!」


ニヤリ、いつもの口角を歪める笑みを浮かべ、ポイと手元に渡された本を繁々と眺めて、初めて気付く。
それがギリシャ語どころか、英語でもなく、イタリア語ですらない言語で書かれている事に。
このウネウネした文字は、誰がどう見ても、欧米圏の文字ではない、と思う、多分。


「あー、っと……。確か、インドネシア語だったか? あそこら辺り、東南アジアのどっか。」
「いや、何処の国の言葉でも良いけど、何故にそんなものを……。」
「だから、勉強だっつってンだろ。言葉を覚えるにはアニメや漫画が一番って言うじゃねぇか。」


勉強ですか。
漫画までも勉強ですか。
何なのですか、この人は。
見た目、激しくやる気のない遊び人みたいな様子なのに、中身は知識欲旺盛でキレッキレな頭脳の持ち主とか、どんだけギャップ萌え主張がしたいんですか?


「なンだよ、アリア。随分とグッタリした顔してンじゃねぇか。」
「疲れているのよ、女官長にグチグチとやられたせいで……。」
「そりゃ御苦労だったな。その漫画、オマエにやるから、脳味噌のリフレッシュでもしろよ。」
「出・来・る・か!!」


何処ぞの十数カ国語ペラペラなイタリア人じゃないんだから。
そんな訳の分からぬウネウネ文字の漫画なんて読んだら、返って疲れるし、返って頭こんがらがるし、もやもやムシャクシャ、スッキリせずに苛立つだけだ。


「別に字を追わなくてもイイだろ。絵面だけ眺めてりゃ、それなりに中身は分かるしよ。」
「そんなの面白くないじゃない。」
「そうかぁ。バトル漫画なんざ、多少の台詞抜きだって楽しめるだろ。」
「そもそも戦闘漫画ってだけで、女の私には面白くないわよ……。」


女心には疎くない筈なのに、時々、こうして押し付けがましいところがある。
ワザと神経を逆撫でしているのか、それとも、からかって楽しんでいるのか。
本心からの意地悪なのか、悪意のない本気の親切心なのか。


溜息を吐きつつ、そっと漫画をデスに返す私。
少しだけ不服そうに肩を竦めて受け取った彼は、「お、そうだ。韓国語ってのもあるぞ。しかも、日本の死神漫画な。これなンて宗教観や地獄観なンてのも分かって、なかなか面白ぇぜ。」などと、如何にも楽しそうに、まるで悪気ない声色で言い放ったのだった。



これだから桁外れ人類ってのは
そんな人が自分の彼氏だなんて



‐end‐





何となく漫画読み耽るデスさんってどうなんだろうと思って書いてみたんですけど。
結局は、娯楽で漫画読みそうな人には思えないなという結論に落ち着き、漫画を教材にするというネタになりました。
知識人デスさんって設定が、実は好きですw

2016.06.28



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