誘惑の赤



「お。アレ、イイじゃん。オマエもタマには、ああいうの買えよ、アリア。」


休日の百貨店。
偶然、通り掛かったテナントの店頭に飾ってあったソレに、興味を惹かれて足を止めた俺に対し、振り返ったアリアはハッキリと顔を顰めた。
ま、当然といえば、当然だな。
こういうの、アリアは好きじゃねぇって分かってて言ってンだから。


百貨店内のティールームは、フロアの奥まった場所にある。
どうしても売り場の中を突っ切って行かなきゃならないせいか、婦人服売り場の奥にある店には、どんなに美味しいケーキが置いてあると言っても、甘味好き仲間のシュラは「行かん。」と首を振った。
それで渋々、恋人の俺を誘ったらしいのだが……。


「だから、デスを誘うのは嫌だったの。絶対に目聡く、こういうのに目を付けるんだから。」
「当たり前じゃねぇか。コレに目が行かねぇ男はいねぇ。」
「目が行っても、見て見ぬ振りしてよ。大体、こういうのは私に似合わないの。」


俺達の視線の先には、ランジェリーショップの店頭に鎮座する首なしマネキンが身に着けた、真っ赤な下着の三点セットがあった。
ベビードールとショーツ、そして、ガーターベルト。
男なら、自分の女にコレを身に着けて欲しい、そして、迫って欲しいと思うのが当然。
だが、己のスタイルに自信のないアリアは、セクシーな下着を毛嫌いしているのも、良く分かっている。


「似合う似合わないじゃねぇって。女なら恋人を喜ばせようというサービス精神くらい持たねぇと。」
「生憎、そんな精神は欠片も御座いませんので。そんなに赤い下着が好きなら、自分が真っ赤なパンツでも履けば?」
「お前ね。俺が赤いパンツ履いてるの見て、興奮するか? 赤い下着は女が着けるからイイんだよ。」


何を言っても、首を縦には振らないアリア。
頑なに似合わないと言い張るが、着てみりゃ、それなりにセクシーにはなると思うンだがなぁ。
身に着けるモノひとつで、気分や気持ちも変わるモンだろ。
色っぽい下着を着りゃ、自然と大人っぽく、女っぽくなるンじゃねぇのか。


「じゃあ、赤い下着が似合う人を恋人にすれば良いのよ。私みたいなチビッ子バンビが相手じゃ、デスは一生満足出来ないでしょ。」
「オマエねぇ……。ソレ、本気で言ってンだったら、泣かすぞ。」
「泣かしてみなさいよー。シュラに言いつけてやるんだから。デスに苛められたって。」
「アリア、イイ加減にしろよ。」


コイツの事だ、本気でシュラに泣き付きかねねぇ。
でもって、意味不明にキレた山羊が、俺のところに聖剣を翳して乗り込んで来る姿が目に浮かぶ。
仕方ねぇ、泣かすのは止めておいてやるか。
その代り……、そうだな。
この真っ赤な下着の三点セット。
気付かれねぇ間にコッソリ買っておいて、今夜、無理矢理にでも着てもらおうか。
じゃないと一生、コイツは気が付かないンだろうぜ。
俺が興奮するのは、赤い下着そのものの誘惑なンてモンじゃなく、ただオマエが俺のために身に着けてくれている、その事実に対してだって事をな。



誘惑の赤よりも誘惑的なオマエ



「さ、早く行こう、デス。席が一杯になっちゃう。」
「おー、悪ぃが先に行っててくれ。ちょっと便所に寄ってくわ。」
「そ、分かった。……って、デス。何をニヤついてるの?」
「は? 気のせいだろ。ニヤついてなンかねぇって。」



‐end‐





この後、トイレ行く振りして、真っ赤な女性下着を買い込むデス様が目撃されたそうな(苦笑)
サイズは大丈夫、デス様の不埒な手が、バッチリ夢主さんの体型を把握しておりますので(苦笑)
山羊さまと良い、蟹さまと良い、そういうところは無駄に器用だと信じてます(爆)

2014.11.11



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