今宵見る夢の予定



「……さてと。今日は何を入れます、旦那様?」


もったりとしたヨーグルトの、真っ白で綺麗なキャンバスの上に、香ばしく色付いたシリアルをたっぷりと入れて、私は背後の彼を振り返った。
ソファーに深々と腰を掛けて、新聞を捲る彼の姿は、まだ身支度する前のもの。
しんなりと垂れ下がったご自慢の銀髪には、子供みたいに寝癖がついたままになっている。


「あ〜。いつもの、だな。」
「ナッツは入れる?」
「勿論。」


くるみと、他にも数種類のナッツを投入。
彼の好きなドライフルーツも少し、オレンジとマンゴー、パイナップル。
私はドライフルーツよりも、ブルーベリーとプルーンを選んだ。


「後は?」
「レーズンだな。ラム酒にたっぷり漬けといたヤツ、戸棚の奥にあったろ。」
「駄目よ、朝から。入れるならお酒に漬けていないのじゃないと。それに、あれはお菓子用なの。」
「ケチケチすンなよ、アリア。ちょっとだけだろが。」
「だぁめ。駄目ったら、駄目。」


朝からアルコール臭を漂わせて執務だなんて、私がサガ様に叱られちゃうもの。
いや、サガ様なら、まだ良いわ。
それがアイオロス様だったら、もっと怖い。
アリアの監督不行届きだなんて、にこやかに言われた日には、恐怖しか湧かないもの。


「分かりゃしねぇよ。そンな少しばかりじゃ。」
「そういう甘えがいけないって言っているのよ。」
「チッ。誕生日の朝くらいイイじゃねぇか。この生真面目が。」
「その生真面目を選んだのは、何処のどなたです?」


答えの代わりに、もう一度、大きな舌打ち。
今更、そんな彼の態度を気にしたりはしない。
私はお酒に浸けていない普通のレーズンを、彼のヨーグルトにザラザラと投下すると、その上から、たっぷりと蜂蜜を垂らした。
花の香りが芳しいシチリア産の蜂蜜は、彼のお気に入りであり、私も大好きだった。


「オマエは従順な女官だったから、もっと俺を立ててくれるかと思ったンだがなぁ。」
「それは残念でした。あ、不満があるなら出ていきます? 貴方なら選びたい放題でしょう。今から新しい恋人さんを探しても、遅くないものね。」
「止めとくわ。今更なんざ面倒臭ぇ。贅沢は言わねぇで、アリアで我慢しとく。」


我慢、ねぇ……。
クックッと堪えきれない笑い声を零せば、向かい側から鋭い視線が飛んでくる。
でも、貴方が今更と言えば、私だって今更。
そんな威嚇の視線も、脅すような表情も、全く怖くはない。
昨夜、あれだけ情熱的な愛を仕掛けられれば、誰だって理解してしまう。
自分がこの人に、どれだけ想われているかなんて。
天にも昇る快楽を味わいながら、何度も耳元に囁かれた愛の言葉は、こそばゆい程に心地良かった。


「それで、今日の予定は?」
「あン?」
「今日の貴方の予定。お誕生日なのでしょ? 予定がギッシリ詰まっているのじゃなくて?」
「残念ながら、なぁンにもねぇよ。」


何も?
シュラ様やアフロディーテ様との飲み会も?


「ねぇって。良く出来た悪友でな。気を利かせて、今日の俺をフリーにしてくれやがった。」
「それはそれは。」


という事は、私の立てた計画は、無駄にならずに済むって訳ね。
後でシュラ様とアフロディーテ様に、お礼を言いに行かなきゃ。


「で、アリア。オマエは俺に何を用意してくれてンだ?」
「知りたい?」
「当たり前だろ。」
「まずは、ホテル・グラードヒルズのイタリアンレストランに、ディナーの予約をしました。」


それを聞いて、ニヤリ、心底嬉しそうに笑みを浮かべる。
貴方が常々、ここのイタリアンは世界一だと誉め称えているのを知っているから、誕生日ディナーはここしかないと思っていた。





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