私だけが知る出来立ての食事が並ぶテーブルで。
熱々の湯気が上がり、彩りも綺麗な料理を目の前にして、貴方は黙って頬杖をつく。
だけど、視線は何処か遠くに、目の前の料理には見向きもしない。
自分が作ったものには興味がないの?
いや、そんな事はないわ。
彼が料理に傾ける情熱は、人一倍大きいもの。
美味しいものを作り上げるためには、決して妥協をしない人。
だから、私は遠慮せずに握り締めたフォークを、その美味しそうな料理へと伸ばす。
炒めたニンニクの香りと、この目を惹き付けて止まない鮮やかなトマトの赤に彩られた数種類のお豆さん達。
掬ったそれをパンに乗せて、パクリと一口。
口内に広がる酸味と甘味、絶妙なバランスで加えられた塩と胡椒の軽い刺激。
カリッと軽く響く焼けたパンの音。
その何もかもが『美味しい』という一言に集約されて、私の脳に感動を浸み込ませていく。
「美味いか、アリア?」
「えぇ、勿論。物凄〜く美味しい!」
「そうか。なら良かった。」
それまで無表情を貫いていたデスの顔に浮かんだのは、ホンの微かな軽い笑み。
照れ笑いというのだろうか。
顔を背けたまま、心持ち俯いて、余りコチラに見えないような角度で零す、その笑み。
いつものニヤリとは全然違う、それは心からのナチュラルな笑顔だ。
「あ!」
「なンだ、アリア。急にデカい声出して?」
「その顔、好き。」
「は?」
自信満々に作り上げられた、いつものニヤリ笑いは、見方によってはセクシーだとも受け取れるかもしれない。
それに心惹かれて、彼に魅せられる人も多い事は良く知っている、私も最初はそうだったから。
でも、絶対に他では見せない、今のような無防備な笑みが好きだ。
理由は幾つかあるけれど、それは私だけが知るデスの顔だから。
「いつものニヤリも素敵だと思うけど、時々、ムカッとする事もあるのよね。でも、今の照れ笑い? はにかみ笑顔って言うのかな? それ見ると、いつもドキッとしちゃう。」
「ハニカミ笑顔だぁ? アホか、俺がそンな顔するかよ。」
「してた、してた。凄く素敵なんだよ、その顔。」
「はっ、バカ言うな。俺はどンな顔だって素敵なンだよ。よーく覚えとけ、アリア。」
「はいはい。」
相変わらず下手な照れ隠し。
そんなところが可愛い。
なんて言ったら、今度は拗ねるから、それは心の中に留めておくの。
私だけに見せる特別な表情、私だけが見る特別な彼。
「美味しい。」と言う私の顔を見たくて、デスが絶対に先に料理に手を付けない事を知っている私は、それを聞いて照れるデスの顔が見たくて、「デスの手料理が食べたい。」と強請ってみせる。
ねぇ、貴方はその事を知っていて、こうしてお料理を作ってくれているの?
無防備な笑顔にやられました
どうぞ、そのはにかんだ笑顔で、他の女の子の気持ちまで攫わないでね、デス。
(オマエこそ、俺以外の男の手料理を、そンな美味そうに食うンじゃねぇぞ、アリア。)
‐end‐
蟹祭りは、まだまだ続く。
続けば、良いなぁ……。
デスさんの手料理が食べたいです。
「死ぬ前に食べたいものは?」と聞かれたら、本気で「デスさんの料理」と答えそうな自分に呆れ返る事しばしばw
2012.06.28
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