なりゆき



夏の夜は長い。
焦って迫らずとも、酒でもチビチビやりながら、ゆっくりじっくり落としてやるさ。
こりゃ、案外、楽勝だな。


なんて、余裕ぶっこいて時間を掛け過ぎた結果が、コレだ。
お目当ての女――、アリアは大して飲んでもいねぇのに、スッカリ酔っぱらってスカスカ寝てやがる。
しかも、この俺の肩を枕にして、大層、無防備に。


「オイ、アリア。起きろ。」
「ん〜、や、だぁ……。」
「結構、重てぇンだぞ。俺の身にもなってみろ。」


それに対する返事はない。
薄っすらと開いていた目も、またカッチリと閉じられ、再び夢の中だ。
平和そうに口元に笑みまで浮かべやがって。
俺が何もしねぇと思って、安心しきってンのか、コイツ。


……ん、ちょっと待て。


この状況って、アレじゃねぇか。
男の部屋で二人きり、酒飲んで、酔っぱらって、挙句、肩に寄り掛かって無防備に寝ちまったとあれば、何をされても文句は言えねぇだろ。
すなわち、アリアにとっちゃ、絶体絶命のシチュエーション。
だが、俺にとっては絶好のチャンス。


「オマエが悪ぃンだぜ。この俺の前で、警戒一つしねぇンだからな。」


柔らかに前髪を掻き上げ、額にキスを一つ。
それでも目を覚まさないアリアを、俺はそっとソファーに押し倒した。


すっかり眠りこけているアリアの身体は、少しの抵抗もなくクッションに沈む。
力の入らない手足、酔いの為に赤く染まった肌、心地良さ気に眠る表情。
何もかもが俺の欲望を誘う。
そして、コイツが自ら俺に奪って欲しいと全身でアピールしているかのように見えてしまう、都合の良い俺の瞳。


「ヤベぇな……。」


無抵抗なのを良い事に、アリアの服を肌蹴た。
左右に押し開いた女官服の間から現れたのは、酔いで赤く染まった白い肌。
そして、予想以上にふくよかな胸、クッキリとした鎖骨のライン、胸の大きさに反してギュッとくびれたウエスト。
一言で言い表すなら、そう『俺好みのカラダ』。


だからこそ、見て、触れて、ゆっくりと手の平を滑らせて感触を確かめて、そして、思う。
これは途中で止めるなンて無理な話だ。
俺の心も身体もアリアを欲して止まず、体内に燻る疼きは、コイツを抱かない事には治まらないだろう。


「は……、あ……。」


夢中で手を動かしていると、眠っている筈のアリアの唇から、徐々に熱っぽい喘ぎが漏れるようになった。
夢の中でも感じてンのか?
ギュッと寄せられた眉、固く閉じた瞼、薄く開かれた唇。
先程よりも更に赤味の増した頬の色は、決して酒の影響だけではない。


そして、散々に無防備なアリアの身体の感触を確かめた後、俺はおもむろに、その核心部へと指を進めた。
同時に零れ出たのは、「あっ!」っと言う、部屋の中に高く響く声。
流石に、この強い刺激には目が覚めたのだろう。
薄く開いた瞼の向こうから、トロンとした焦点の合わない瞳で俺を見上げてくるアリア。


「い……、匂い、する……。」
「あ、匂いだぁ?」


俺には、酒と汗と性交独特の淫靡な匂いしか感じられない。
コイツ、まだ夢の中にいるのか?
夢と現実の狭間に漂い、与えられている快感が何なのか、全く理解出来てないに違いない。


「お酒、と……、煙草、と……、エスプレッソみたいな……、深い香水の、匂いが……、混じって出来た……、デス様だけの、匂い……。凄く、良い匂い……。」
「俺の匂いが、良い匂いだってか?」
「ずっと、思ってた……。この匂い、もっと傍で……、感じたいって……。」


なら、分かってンのか?
俺が今、オマエに何をしているのか、何をしようとしてるのか。
そンなにぼんやりとした状態でも、ちゃんと分かってるってのか?


「して……、くださ……、デス様……。もっと……、もっと、し――、あっ! ああっ!」


アリアの懇願の言葉と同時。
コイツの望み通り、その身体の一番深い部分へと押し入った。
細く高く上がる嬌声。
俺を受け入れ、途端に跳ね上がる身体と、しっかりと絡み付いてくる手足。


「凄ぇっ……、なンだよ、この身体……。」


熱く潤う内側を夢中で堪能し、息を切らして激しく動きながら気付く。
あぁ、そうか。
今夜、落とされたのは俺だったのだ、と。



手に入れられるのなら、どちらだって構わない



寧ろ、コイツを落とす、そう決めた時点で、俺の方がアリアに落とされていたんだろう。
この心、全てひっくるめてな。



‐end‐





蟹誕が近いので、蟹氏のSSなどを書き散らかそうなどと思ったら、初っぱなからEROきましたよ、コレ(苦笑)
蟹氏のように魅惑的でいながらクセ(アク)の強い男の人を落とせるような女性って、どんな人なんでしょうかね?
一応、このSSでは『大人しく清楚な感じの女官さん』をイメージして書きました。

2012.06.17



- 1/1 -
prev | next

目次頁へ戻る

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -