「キシャー! ミギャー!」
「あぁ。煩ぇ、煩ぇ。」
「ギギャー!」
デスマスク様に摘み上げられたシュラ様は、それはそれは嫌そうにジタバタと手足を振って暴れ捲くっている。
余程、お風呂に入るのが嫌なのか。
その顔は、先程、アイオリア様を足蹴にした事で怒られた時よりも、ずっとずっと険悪だ。
眉間に皺が寄り、額に青筋まで浮かんでいる、ように見える。
「シュラ様、そんなにお風呂が嫌いなのですか?」
「違ぇよ。コイツ、俺じゃなくて、オマエと入りてぇンだ、アンヌ。」
「え?」
「俺みてぇなゴツい男に身体を洗ってもらうよか、綺麗な姉チャンに洗われる方が千倍は嬉しいモンなぁ。風呂場なら裸も拝めるし。なぁ、このムッツリ山羊めが。」
「キシャー!」
あぁ、なる程、そういう事ですか。
でも、それなら、シュラ様は私が洗って上げても良いのだけど。
「アホか。このムッツリ山羊だぞ。風呂場でオマエに、どンな事してくるか分かンねぇだろが。」
「でも、猫の姿ですよ? 何も出来ないのでは?」
「猫だから危ねぇンだよ。この小さい身体を使えば、それなりにイイトコに潜り込めるからなぁ。風呂場じゃ服も着てねぇ事だし。」
「ミギャー!」
確かに、色々と危険な匂いがプンプンします。
相手がシュラ様ならば、より一層。
だったら、デスマスク様にお任せするのが一番だわ、うん。
「おーら、風呂行くぞ、エロ猫共。」
「ギシャー!」
バスルームへと向かって徐々に遠退いていくシュラ様の悲鳴まがいの鳴き声。
バタンと閉じられたドアの音と共に、その鳴き声が聞こえなくなると、私はダイニングへと戻った。
彼等がお風呂から出てくる前に、夕食の後片付けを終わらせてしまわなければ。
そうしないと、デスマスク様お一人で、あの暴れん坊の二匹を押え付けてはおけないだろう。
ビシャビシャに濡れたままの姿で、リビングをアチコチ走り回られては大変な事になる。
「急がなきゃね。」
少々、雑にはなったけれど、大急ぎで後片付けと洗い物を終えると、私はリビングの真ん中にバスタオルを数枚敷いた。
それからもう数枚のタオルとドライヤーを用意して、準備万端、彼等の戻りを待った。
「オイ、アンヌ! 一匹、離すぞ! コッチ来て、捕まえろ!」
「あ、はい!」
バスルームから私を呼ぶ声が聞こえ、慌てて廊下へと向かう。
丁度、バスルームの前まで来た時、バタンと開いたドアの隙間から、弾丸の如く凄まじい勢いで一匹、猫ちゃんが飛び出してきた。
「わっ! 吃驚した!」
「ミャンッ!」
現れた猫ちゃんは、私が広げていたバスタオルの中へと一直線に飛び込んでくる。
黒くて短い毛のこの猫は、シュラ様だわ。
毛の長さが短いからか、元々の毛の質なのか、あまり濡れていないように思える。
実際、軽くバスタオルで拭いて上げただけで、シュラ様は十分なようだ。
「綺麗になりましたね、シュラ様。さっきも艶々でしたが、今はもっと艶々してますもの。」
「ミャーン。」
「オイ、アンヌ。も一匹、行くぞ!」
「あ、はい!」
ドアの向こう側からデスマスク様の声が聞こえるや否や、またしても凄まじい勢いで猫ちゃんが飛び出してきた。
慌てて広げたバスタオルでキャッチすると、その中にはビチャビチャに濡れたアイオリア様が埋まっていた。
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