「ミャミャミャ。」
「そうか。オマエもカボチャが気になるか、シュラ。やっぱそうだよなぁ。」
「あの……。」
ペシペシとカボチャの表面を叩き続けるシュラ様の背を撫で、ウンウンと頷くデスマスク様。
きっかけ探しと言うけれど、これが一体、何になるというのか。
サッパリ分かりません、全く分かりません。
「オマエ、ホントに分かンねぇの? 流石は鈍感女だけの事はあるな。」
「いや、そこ、鈍いの関係ないですから。そもそも私は鈍くありません。」
「いや、鈍いって。超絶鈍いって。」
「ミミャッ!」
「ミミッ!」
賛成するように元気良く右の前足を上げるシュラ様とアイオリア様。
そ、そんなに全力で肯定しなくても良いじゃないですか……。
こんな私でも、傷付く時は傷付きますよ。
「オマエが? 傷付くとかねぇだろ。」
「そうだねぇ。アンヌが傷付くとか、ハッキリ言って無さそうだよねぇ。」
「アフロディーテ様まで?!」
「だって、シュラが浮気でもしない限り、キミは傷付いたりしないだろう?」
「ミギャッ! ミギャギャギャッ!」
「俺は浮気なんぞしねぇって、そこの黒猫が喚いてンぞ。」
例えですから、例え!
冗談みたいなものですから、そんなに怒らないでください、シュラ様!
シュラ様が真面目で誠実で一途なのは、私が重々に理解していますから大丈夫です。
ちょっとだけ、あの、よ、夜の愛情表現が激し過ぎる傾向はありますけれど……。
「こ、コホンッ! そ、それで結局、そのカボチャは何なのですか? きっかけって何ですか?」
「あぁ、そうそう。うっかり忘れるトコだったわ。」
忘れないでください、そういう大事な事は!
デスマスク様はヤレヤレといった調子でカボチャを床に下ろした。
直ぐに、その左右を囲んで、ペシペシとカボチャの表面に猫パンチを繰り出すシュラ様とアイオリア様。
分かっていると思いますが、カボチャは玩具ではないですよ?
「前に元に戻った時の事を思い出せ。あの時、どンな状況だった? 俺等は何をしてた?」
「えっと……。」
確か、キッチンで何かを作っていて……。
蒸しパンだったかしら……、いや、違う。
パウンドケーキを焼いていたのだったわ。
傍のスツールに飛び乗ったシュラ様が、作業する私を、ずっとそこで眺めていた。
「……カボチャ、ですね。」
「え? 何がカボチャだって、アンヌ?」
「私が焼いていたケーキです。カボチャのパウンドケーキでした。」
この黒猫ちゃんが本当にシュラ様なのかを確かめるために、デスマスク様がカボチャを斬ってみろと言って、猫聖剣でスクエアカットされたカボチャが、そのまま残されていたので、それを使って何かを作ろうとしていたのです。
で、結局、パウンドケーキを焼く事にして……。
焼き上がりの良い匂いに釣られてシュラ様が食べたいとお強請りしてきて、そこにアイオリア様も加わって……。
「で、オマエが一切れだか、二切れだか、カボチャケーキを食わせてやった、と。すると、暫く後に突然、大激走した猫共が部屋に閉じ籠っちまって、出てきた時には、あら不思議。人の姿に戻ってたっつー話さ。」
「その通りです……。」
あの時、突然に元に戻ったのは「カボチャが原因かも。」だなんて言っていたのに、今ではスッカリその事を忘れてしまっていた。
何故、もっと早く思い出さなかったのだろう。
今更どうこう言っても仕方の無い事だけれども。
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