バスケットの中に、マフィンとミルクティーの入った水筒を詰めて、と。
さ、どうぞ。
これを持って教皇宮に持って行ってくださいね。
「え〜……。」
「え〜、じゃないだろう。キミは早く教皇宮に戻って、執務の手伝いをしないと。」
正確には、手伝いではないんですけど。
今、現在が執務をサボっている状態ですから。
こうしている間にも、刻一刻とサガ様が追い込まれつつあるんです。
そうと分かっていて、全く罪悪感を覚えないのは、流石アイオロス様と言うべきか……。
「そうだ。アイオリアも一緒に行こう。」
「……は?」
「ミッ?!」
「うん、そうだ。それが良い。ナイスアイディアだ、流石は俺。」
いやいやいや。
意味が分からないですし。
流石は俺って、何処がどう流石なのでしょうか。
アイオリア様なんてビクビクと身体を震わせながら、慌ててシュラ様の陰に隠れてしまいましたけど。
「ミャー! ミミャミャミャミャーー!」
「シュラがアイオリアを庇ってる……。」
「まさかこんな光景を見る日がくるなんて……。」
自分の後ろに隠れた(と言っても、スラリと細身の黒猫ちゃんの後ろに、モフ毛で筋肉質のアイオリア様では、全く隠れ切れていないのですけど)アイオリア様の代わりとばかりに目を尖らせ、歯を剥き出しにして、威嚇の声を上げるシュラ様。
短い黒毛を逆立てて、「ミャーミャー!」と抗議を繰り返している。
「何、シュラ? あ、もしかして自分を連れて行け、とか言ってる?」
「ミミャッ?! ミャー、ミャミャミャッ!」
「とんでもなく自分勝手な解釈してる……。」
「スーパーポジティブとでも言うべきでしょうか。アイオロス様、凄いです……。」
などと、感心している場合ではありませんね。
このままではシュラ様かアイオリア様の何方かが連れて行かれてしまう。
寧ろ、アイオロス様のあの勢いでは、二匹纏めて両腕に抱えて行きそう。
「アイオロス。猫連れで執務など出来ないだろう。しかも、シュラはゴミ屋敷製造猫だし、執務室をどれだけ荒らす事か……。」
「じゃ、アイオリアで。」
「だ、駄目です。あんなに怯えている猫ちゃんを外に出す訳にはいきません。」
「そうかぁ?」
疑いの眼差しでジトッとした視線を猫ちゃん達に送るアイオロス様。
ビクリと背筋を伸ばすシュラ様とアイオリア様。
そして、アイオリア様は更に身体を小さくし、シュラ様は「キシャー!」と声を上げる。
「さ、アイオリア様、こちらへ。」
「ミッ!」
「シュラはこっちだ。」
「ミミャッ!」
アフロディーテ様と私で、二匹の猫ちゃんをガッチリと抱き上げ、決して渡すまいとのアピールをする。
アフロディーテ様に抱き上げられたシュラ様は多少暴れていますが、そこは気にしていられない。
さ、アイオロス様。
そろそろ諦めたら如何ですか?
それともサガ様をお呼びします?
「サガに首根っこを掴まれて教皇宮まで引き摺られていくより、自分から執務に戻った方が、教皇補佐としての威厳も保たれるんじゃないのかな。ねぇ、アイオロス?」
「むむっ……。」
声を詰まらせたアイオロス様は、暫く黙って考え込んだ後。
本当にどうしようもなくて仕方なく嫌々で渋々な様子でバスケットを掴むと、大きな溜息を吐いてからドアへと向かった。
どうやら、やっと諦めが付いた模様ですね。
部屋を出る前、これが最後とばかりに猫ちゃん達の頭を撫でようとするアイオロス様。
それに対し、クワッと口を開けて噛み付こうとしたシュラ様だったが、アフロディーテ様が慌てて口を塞いだ事により、無事、アイオロス様は心置きなく撫で撫でが出来た。
という訳で、それ以上の不平不満を言うことなく、彼は磨羯宮を後にしたのだった。
→第13話へ続く