話の前に、まず床を滑ってる二匹を黙らせろ。
そう言い放ったデスマスク様の一声により、紙袋スライディングに興じるアイオリア様を、ミロ様が巧みに捕まえた。
勿論、シュラ様もアッサリとデスマスク様の手で取り押さえられる。
暴れもがく黒猫ちゃんの首根っこを鷲掴みし、フンと鼻息も荒くソファーに腰を下ろすデスマスク様。


「ミギャー！」
「煩ぇな、バカ猫が。誰のせいで、俺が走り回ってると思ってンだ、あ？」
「ミギャッ！　ミミャー！」
「と、取り敢えず、シュラ様は私が……。」


ひたすら暴れて収拾がつかないので、デスマスク様の手からシュラ様を奪い取る。
私の腕の中に移った途端に大人しくなったのは良いけど、同時に胸の谷間に小さな頭をグリグリと潜り込ませてくるエッチっぷりは、どうなのか……。


「フンフン、プハッ。」
「シュラ様、いい加減にしてください。」
「ミャッ？」
「可愛く首を傾げれば良いってものじゃありません。人前でこういう事は止してください。」
「ミャミャッ。」


嫌だと言わんばかりにブンブンと首を左右に振り、そして、再度、胸の谷間に頭を突入させてくるシュラ様。
そうでした。
この人（猫）は他人の言う事など、毛程も聞かない人でした。
チラと横を見遣れば、再びミロ様のマタタビ族パワーに毒されてしまったのか、フンフンとミロ様の脇腹に顔を擦り寄せている。
う〜ん、これ、後で我に返った時（人の姿に戻った時）に、アイオリア様が落ち込みそう。
シュラ様なら気にしないだろうけれど、アイオリア様は意外に繊細だから……。


「それ、言わないでくれるか、アンヌ。俺だって、猫だと思ってるから許容してるけどさ。これがアイオリアだと思ったら、流石に気持ち悪い……。」
「す、すみません、ミロ様。気を付けます。」


ミロ様は溜息を吐きつつ、擦り寄るアイオリア様を引き剥がして、私の方へと押し付けてくる。
結果、右と左、両の腕に猫ちゃん二匹を抱っこする形となった私。
ちょっと気分が良い。
耳、ピクピクと動いていて可愛いですね。
頭を撫で撫でしたいけれど、両手が塞がっていて無理なので、口で耳を食んでも良いですか？


「ミミャッ！　ミャミャッ！」
「駄目ですか、そうですか、ガッカリです。」
「ミャッ！」
「シュラ様は耳が弱点ですものねぇ……。」
「オイ。コラ、そこ。イチャついてねぇで、話を聞け。」


うっかり猫耳の魔力に夢中になってしまい、デスマスク様に注意されてしまった。
恐るべし、猫耳。
恐るべし、黒猫シュラ様と、そのピンと尖った凛々しい猫耳。


「猫の耳にうつつを抜かしてる場合じゃねぇぞ、アンヌ。俺が走り回ってる間に、遊び惚けてたンだろ、オマエ等の事だから。」
「まぁ、何をしてたかって問われると、猫共と戯れてたとしか言いようがないけど……。」
「ミギャッ！」
「ミギャじゃねぇよ。オマエが迂闊に猫になンかなりやがるから、俺が迷惑を被ってンの。分かってンのか、シュラ？」
「ミャギギャー！」


デスマスク様が、シュラ様の尖った耳の先端を摘み、そこが弱点と知っていて、敢えてギューッと上に引っ張り上げた。
抵抗するシュラ様だが、ブンブンと振り回された前足は虚しく空を切る。
猫ちゃん相手に優位に立つデスマスク様は、これ見よがしにニヤリと口角に笑みを浮かべてシュラ様の耳を離すと、続け様にアイオリア様の狭い眉間に人差し指を押し当てた。
そして、嫌がる素振りのアイオリア様にお構いなく、その指でグリグリと眉間を押し抉ったのだった。



→第５話へ続く