「ミギャッ!」
「何だ? 何か言いたいのか、シュラ?」
「ちゃんと頭を下げるから手を離せって言ってるんじゃないのか。」


本当にそうでしょうか、ミロ様。
手を離してくれとは言っていたとしても、ちゃんと謝りますとは絶対に言わないと思います、この人。
もとい、この猫ちゃんは。
床にグリグリと押し付けるアイオロス様の握力が強いとか痛いとか、そんな事だろうと思いますけれど、きっと。


「ほら、離してやったぞ、シュラ。」
「ミャッ!」
「さぁ、頭をシッカリと下げて、アイオリアに謝るんだ。」
「ミミャ……。」


アイオロス様の圧力が……、笑顔の圧力が怖過ぎるんですが。
何という威圧感、何という迫力。
その威力のお陰か、あの強情で人の言う事などに聞く耳を持たないシュラ様が、ビクビクしながら頭を下げる。
小さな黒い頭を床に軽く付けて、端から見ても見事な反省のポーズだ。
そして、尖った耳がピクピク揺れているのは、アイオロス様に対する恐怖の現れだろう。
あのシュラ様が、こんなにもしおらしくなるなんて奇跡だわ、奇跡。


「ミ、ミイッ。」
「ミャッ?!」


そこで終われば良かったものを、アイオリア様は何を思ったのか、シュラ様の下げた頭にポンと前足を乗せた。
先程のアイオロス様の遣り方に影響されたのか、やられっ放しのシュラ様にやり返したかったのか、渡し板から落とされた事を余程深く根に持っているのか。
兎に角も、涼しい顔をしたアイオリア様は、シュラ様の頭に乗せた右前足で、その小さな頭をググッと床に押し付けたものだから、元より短いシュラ様の堪忍袋の緒がブチッと切れた。


「ミギャッ!」
「ミミッ?!」
「ギギャー!」
「キシャー!」


――シュシュシュッ!
――ビシビシビシッ!


「おいおい。また何か始まったよ、この二人。」
「良いじゃないか。喧嘩する程、仲が良い証拠さ。やらせておけ。」
「いや、きっかけはロスにぃだと思うんだけど……。」


怒りに任せてアイオリア様を跳ね退けたシュラ様。
驚いて臨戦態勢に入るアイオリア様。
そこから互いに向けて繰り出される、恐ろしい速さの猫パンチの嵐。
しかも、光速パンチなのか、凡人の私の目には残像の線しか映らない応酬が続いている。
流石は中身が黄金聖闘士、猫であろうとスピードに衰えはないらしい。


「シャー!」
「キシャー!」
「止めなくて良いのですか、これ?」
「止める? どうしてだい、アンヌ? 折角、楽しそうにじゃれ合ってるのに、止める必要はないだろ。」
「いや、じゃれ合ってないだろ。本気でキレてんじゃん、コイツ等。」


ミロ様は呆れた顔でアイオロス様、それから、猫パンチ合戦を続ける猫聖闘士二匹を見遣る。
彼は仕方ないなぁと呟きながら二匹の横に屈み込み、目にも留まらぬ速さで腕を伸ばした。
すると……。


「ミャッ?!」
「ミミッ?!」
「はい、ストーップ。お前等、そこまでな。」


ミロ様の両手に首根っこを掴まれて、ブラーンとぶら下がる黒猫シュラ様と金茶猫アイオリア様。
二匹の間隔は一メートル少しといったところ。
という訳で、彼等が大人しく喧嘩を止める筈もなく。
ブラブラする身体の揺れに自分で弾みを加えて、目一杯に伸ばした後ろ足で、何とか相手の身体にキックをお見舞いしようとしているではないか。


「コラコラ、止めろって。」
「ミギャッ!」
「ミミー!」
「言う事を聞かない奴等だな……。これ以上、続けるようなら、『ロスにぃにギュッと抱っこされる刑』を発動するぞ。良いのか?」
「っ?!」
「っ?!」


ビクビクッと身体を震わせた猫ちゃん二匹。
余程、アイオロス様に(力尽くで)抱っこされるのが嫌なのか、怖いのか、ピタリと動きが止まる。
そんなブラリとぶら下がる二匹の分かり易い反応を見て、ミロ様はクックックと笑いを零した。





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