「はいはい、おバカですよー、私は。でもね、例えおバカでも名前はあるのよ、私にも。ミカっていう立派な名前が。」
「うっせー。」
「うっせー、じゃなくて、ミカ。ほら、ちゃんと名前で呼んで。」
「う・る・せ・ぇ・よ。」


全くもう……、何処までも頑固なんだから。
とはいえ、どれだけ拒否され続けようとも、しつこく「名前で呼んで!」と迫る私も、相当に頑ななのだろうけれど。
分かっているの。
デスが私に向けて言う『オマエ』と、他の人を呼ぶ『オマエ』とでは、そこに籠められているものが違うって事くらいは。
それでも、女は証を欲しがる生き物。
心と心の繋がりだけでは心許なくて、どうしても言葉で誠意を示して欲しいと願ってしまう、「愛している。」とか、「好きだよ。」とかの愛の言葉で。
それが私にとっての名前。
デスの声が紡ぐ『ミカ』という音の響きが大好きだから。


「私、新しいコーヒー淹れてくるね。」
「イイ、いらねぇ。」
「でも、もう飲み干しちゃったから……。」
「イイって。座ってろ、ココに。」


立ち上がり掛けた私を制し、デスは私を目の前に留め置いた。
何か言いたい事があるのか、ジッと私の顔を見つめる。
いや、睨んでいるに近いかしら、この鋭く尖った視線は。
だけど、決心が付かないのか、グシャリと銀色の前髪を掻き上げ、それから、チッと舌打ちした。
敏感過ぎるが故に、いつも苛立っているデス。


「……郷愁だろ?」
「え?」
「溜息の原因だ。シチリアに帰りてぇンだろ?」
「う〜ん、まぁ、そうだけど、ねぇ……。」


シチリアはデスの故郷であって、私の故郷ではないから、郷愁というのは少し違う気がする。
私にとっての故郷は聖域なのだけれど、ココは何故だか息が詰まる。
私が居るべき場所ではないという気が、いつもしている。


「大きな任務が舞い込んできた。適任としては俺かシャカか。他のヤツ等じゃ無理らしい。面倒な交渉なンぞまで考えてか、サガはシャカよりも俺に行って欲しいみてぇなンだが……。」


デスが口籠る。
つまりは、黄金聖闘士でも危険な任務だと言いたいのね。


「任務が終わったらシチリアに帰ってイイってよ。ただし、俺がその任務を引き受けたらの話だが。」
「それで迷っているの? 危険度の高い任務だから?」
「危険なのは俺じゃねぇよ。」


デスはチラと私を一瞥し、それから、今度は自分が溜息を吐いた。
私の細やかな溜息とは比べ物にならない程、大きく深い溜息を。
彼は自らの危険を恐れるような人ではない。
怖いのは、デスを送り出した私が不安に沈んでしまう事だろう。
何だかんだで私を放っておけない、それがデスの優しさ。
私の心の動きは、デスの心に転移する。
溜息だけでなく、不安や憂鬱、焦りや悲しみも。


私はデスに向かって手を伸ばすと、不意打ち気味に彼の前髪をグシャグシャに掻き撫でた。
迷っているだなんてらしくない。
私の事など気にする必要なんてない。
デスが文句を言い出す前に立ち上がり、私は二つのコーヒーカップを両手に抱え、キッチンへと姿を消した。



その迷いは愛しさの証



‐end‐





すっごく久し振りです、シチリア固定夢主さん。
ちょっと、この先の展開を考えていまして、それに向けての前日譚みたいになれば良いなぁと思っての話です。
が、意味不明なところが多くてすみません;

2018.03.22



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