子供な貴方、大人な貴方



「……んっ。」


寝苦しくて目が覚めた。
いや、正確には、息苦しくて目が覚めた。
もっと惰眠を貪りたいと願う気持ちに反発して、薄らと瞼を持ち上げると、ぼんやりした視界に映るのは、暗闇の色に染まった白い肌と、クッキリと浮かび上がった綺麗な鎖骨。
……あぁ、またか。
そう思いながら、今度は大きく瞼を開いた。


少しだけ、頭を動かしてみる。
辛うじて視界が捉えたのは、あの人の顎の先と、僅かな輪郭だけ。
余りに近過ぎて、顔も表情も全く見えない位置。
そして、身体は身動ぎ一つ出来ないくらいに、ガッチリと抱き締められていた。


振り解こうとしても、振り解けない、それだけ強い力が籠められた腕。
これだけグッスリ眠っていても尚、私を離す気なんて全くないんだわ。
それは嬉しいような、少しだけ呆れるような、何処となくムズ痒い感じ。
こうして睡眠中の無意識下で、私を離すまいとした事は、以前にも何度か経験している。
シチリアに居た時だって、なかった訳じゃない。
だけど、この聖域に来てから、三日に一度は、この子供じみた独占欲が、本人の知らぬところで顔を出していた。
理由は明確だった。


俺様暴君な蟹座の黄金聖闘士様が、時々、無意識に子供みたいになるだなんて。
きっと誰も信じてくれないわよね。
でも、それで良い。
素の自分を曝したこの人の姿を、他の誰にも見せたくはないから。


「デス……。デス、起きて。」
「ぁあ……。煩ぇな……、寝かせろ、って……。」
「寝ていても良いけど、少し腕の力を緩めて。苦しいから。」
「あ? あぁ……。」


僅かに腕の力が緩み、その隙間から、私はゴソゴソと這い出した。
ホッと小さく息を吐き、それから、ゴロリと寝返り。
ずっと同じ体勢で抱き締められていたからか、下側になっていた身体の右側面が固まって痛かったのだ。
強張っていた身体を解すよう、寝具に横たわったままでモゾモゾと軽く肩を動かし、手足を伸ばす。


「……わっ?! な、何?!」
「離れちまうと、素肌恋しくなるだろが……。」


うっかり油断して、デスに背中を向けてしまったのは、明らかに私のミス。
今度は後ろからギュッと抱き締められて、心臓が大きな音を鳴らす程に驚いた。
しかも、結構な力の入り具合。
半分、夢の世界にいても、流石は黄金聖闘士ね。
もがいたところで、ビクともしない、頑強な腕が憎たらしい。
これでは、一度、彼の腕の中から逃れた意味がないじゃないの。


「素肌恋しいって何よ、デス……。ほら離して。苦しくて眠れないんだから。」
「……ダメだ。」
「どうして?」
「ミカは俺の抱き枕……、だからな……。」


珍しく『オマエ呼び』しなかったと思えば、私を抱き枕扱いとは。
寝呆けながら、潜り込むように首筋に擦り付けられる鼻先の感触が、酷く擽ったくて、こそばゆい。
全く……。
朝になって、「ンな事、知らねぇし、やってねぇよ。」なんて、堂々と言い出さないかしら、この人。
これだけ寝呆けていたら、次に目覚めた時には、何も覚えていないかもしれないわね。
子供みたいに、私から離れようとしなかったなんて、例え覚えていても、知らないと言い張りそうな気もするけれど。





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