私がデスの許(モト)に留まろうと決意した、あの六年前の事。
彼には人間の三大欲と言われる、その全ての欲がなかった。


いや、正確には、睡眠欲はあったのだろう。
けれど、彼の睡眠は巨蟹宮に蔓延る悪霊達に狙われて、マトモに眠りを取る事すら出来ていなかった。
そんな酷い寝不足の状態では、食欲すら下降する一方。
そして、勿論、女性を抱く体力だって残っていなかった筈。
日々、積み重なっていく寝不足に追い討ちを掛けて、毎日の任務や執務、それに聖闘士としての厳しい鍛錬。
自身の身体と精神に鞭を打ち続ける中で、女性を抱きたいと思う事すらなかったのではないだろうか。
寝不足は夜遊びのせいだなんて、嘘だらけの軽口を叩いてはいたけれど。


共に暮らし始めて、最初は、殆ど物を食べたがらないデスに、食事をさせるだけでも一苦労だった。
本来なら、睡眠と食事は生きていく上で絶対に必要なもの。
性欲だけは、別になくても生きていける。
子孫を残す事を考えなければ、性欲は満たされなくても問題はない。


なのに、私は間違った順番で、デスを目覚めさせてしまった。
まず最初に彼の性欲を満たし、そこから連動して睡眠欲を満たした。
だから、そのどちらにも連動しない食欲は、なかなか回復させるのは難しかった。
デスは料理をするのは好きだ。
それを人に食べさせて、美味しそうに食べる様子を見ているのも好き。
なのに、自分が食べるとなると、あまり気分が乗らないようで。
今でも、私が傍に居ない時、任務で離れている時などは、ちゃんと食事を摂っているのかと心配になる程、食事をするという事に関しての関心は、どこまでも薄い。


巫女への復帰の話。
巨蟹宮に戻ってきて直ぐに、こうして押し倒されてしまったから、まだデスには話せていない。
でも、勘の良い彼の事。
アテナ様から私へと直々に下された話が何であったのか、そのくらいは容易に理解してしまっているに違いない。
だからこその、この強引な行為。
嫉妬と独占欲を剥き出しにした、激しい愛の表現。
口に出しては絶対に言わない分だけ、その表現は深く濃厚だ。


アテナ様は「時間のある時だけで良い。」と言ってくださった。
デスを支える役目を最優先にして、アテナ様の補佐は後回しにしても良いと。
だけど、それは無理な話だった。
私に巫女としての誰よりも強い力があるのならば、必然的にアテナ様のために多くの時間を割かざるを得ないだろう。
この力を必要とするのはアテナ様だけではない、神官や聖闘士達に望まれれば、私はこの力を貸さなければならない。
立場的に拒否するのは難しい。


「で、デスッ……。デス、あ、ああっ……。」
「くっ、ミカ。オマエ、ホントに……。」
「な、に?」
「イヤ……。最高だ、オマエは。」


私はデスのためにある。
彼と初めて愛を交わしたあの日から、私の全ては彼に縛られた。
デスが生きていくために必要なもの、それを満たすために存在する『ミカ』という名の唯一の生物なの。
だから、巫女に戻る訳にはいかない。
ホンの僅かであっても、デスの傍を離れてしまう訳にはいかない。


「あぁっ! は、はぁっ! あ、あぁっ!」
「もっと声を……。ミカ、俺のために鳴けよ、もっと……。」
「あぁっ、デスッ! あ、あ、デス! あぁっ、あっ!」


もっと縛って。
もっともっと私を縛って。
貴方以外の何もかもが見えなくなるくらいに、激しく強く私を雁字搦めにしていて。


ソファーが壊れそうな程に軋む。
歪む世界、震える鼓動、燃える上がる身体、求める心。
近付きつつある絶頂の波に揺れる視界の中、デスの紅い瞳が滲んで見えていた。



貴方の望みが私の全て



「ねぇ、デス。もう私を置いて、一人で勝手に死んだりしないでね。」
「ンな事、言われてもなぁ。俺は聖闘士だし、無茶な話だろ。」
「分かっているわよ、無茶だって事くらいわ。でも、そこは『分かった。』って言って欲しいの。」
「ったく面倒臭ぇ……。」


そう言いながら、身体を反転させた彼は、またソファーに組み敷いた私の上へと圧し掛かってきて。
ピッタリと隙間なく触れ合う肌と肌、胸と胸、身体と身体。
擦り付けられた頬の心地良く温かい熱に瞼を閉じた瞬間、何より欲しかった言葉が、囁き声となって耳の奥に零れ落ちた。
そしてまた、果てない歓喜の海へと……。



‐end‐





三大欲を失っていた六年前のデスさんが、まず最初に性欲から回復したんだよって話です(爆)
料理好きでも、自分は余り食べたがらないデスさんって良いな、とか。
性欲は旺盛なのに、食欲はサッパリなデスさんって良いな、とか。
何というか……、この二人って、実は共依存な生き方をしてるんですよね、きっと彼等は気付いていないのだろうけれど。
書いていてドンドン深みにハマってしまっている気がします(苦笑)

2014.03.23



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