君に大満足?



予定していた任務が急に取り止めとなり、ポッカリと空いてしまった午後の時間。
このまま無駄に過ごすのなら、可愛いパティシエさんの助手になる方が、ずっと有意義だ。
という訳で、飛鳥と二人、ケーキを作って過ごす和やかな時間を思い浮かべながら意気揚々と向かった磨羯宮。
だが、予定が狂ったのは、どうやら私だけではなかったらしい。
キッチンに辿り着く前に必ず通過しなければならないリビングには、この宮の主がムスッと仏頂面でソファーにドッカリと座り込んでいた。


「おや、シュラ。キミは今日、執務当番じゃなかったのかい?」
「ミロに明日の当番と代わってくれと頼まれた。お前こそ任務じゃなかったのか、アフロディーテ?」
「急に取り止めになってね。暇を持て余していたところさ。」
「そうか……。」


なら座れと言わんばかりに、フンと顎で向かい側のソファーを示す。
奥のキッチンには行かせんぞと、言葉に出さずとも、その気配に無意識に滲ませて。
ふわりと漂ってくる甘い香りは、飛鳥がキッチンでスイーツを制作中だという間違いない証拠。
そこに居る事は分かっているのに、彼女の傍に行けないのは口惜しい。
折角、ココまで下りてきたのにと、少々腹立たしく思いながら、私は独占欲の強い悪友の前に腰を下ろした。


そのシュラはというと、眼前のテーブルに山と積まれた雑誌を黙々と読み続けている。
一体、何をそんなに真剣に読み耽っているのかと覗き込んでみたものの、それはシュラという真面目な男が好んで読むとは到底思い難い類の雑誌だった。
どのページを開いてみても、限りなく面積の狭い下着や水着を身に着けたセクシーな女性が、不自然極まりないポーズで身体を捻り、胸や腰を強調する仕草と色気たっぷりの視線で写っていた。
所謂、男性向けのアダルティーなグラビア雑誌だ。
何故に、こんなものを読んでいるのかと問えば、今朝方、デスマスクが持ち込んで、ココに置いていったらしい。


「アイツ、『オマエの生活には色気的な潤いが足りてねぇ。コレでも読ンでムラムラを補給しろ。』、だと。」
「随分と余計なお世話だな。と言いたいところだけど、その割には……。」


こうして次々と読み耽っている辺り、実はシュラとしても色気補給が足りてなかったのか。
こんなのもの、そこらに捨て置けば良いものの、キッチリシッカリ目を通すなど、何処まで生真面目なんだか、この男は。
しかも、こんな一歩間違えば卑猥とも受け取れる雑誌を、恋人も一緒に住まう宮に持ち込まれて、怒りを見せない飛鳥も飛鳥だ。
こんなの見ちゃ駄目と言って、シュラから遠ざける事だって出来るだろうに……。


あからさまな溜息を吐いても、シュラは私の方など見向きもせずに、雑誌を眺め続けている。
キッチンからは甘い匂いと共に、飛鳥の鼻歌が聞こえてくる。
やはり彼等は、普通のカップルとは違うらしい。
もう一つ、盛大な溜息が零れ出る。


「……栗が食いたい。」
「は? 栗だって?」
「栗なら何でも良い。何でも良いから食いたい。」


バサリと乱暴に雑誌を置いて、スッとソファーから立ち上がるシュラ。
呆気に取られる私を前に、何を突然、言い出すのか。
見ていた雑誌の中に、この甘党聖闘士の心に引っ掛かるようなスイーツの広告でも出ていたのか?
もしくは、栗の特集記事でも載っていたか?
テーブルの上に投げ出された雑誌を引き寄せ、パラパラと捲ってみたものの、そのようなものは何処にも見当たらなかった。
あるのは、デスマスクが好みそうなプルンと大きなバストや、パンと張ったヒップや、細く括れた腰をくねらせて、レンズの向こうにいるであろう読者に媚びを売る、綺麗ではあるが安っぽい女の姿態ばかりだ。





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